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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/御坂美琴の消失 第7章(後編) 上条当麻は一方通行へとダッシュをかけた。 対して、一方通行はその場に突っ立ったまま、拳の一つも握らない。両腕をだらりと下げたまま、両足もろくに重心を計算に入れず、顔には引き裂かれそうな笑みを浮かべ、たん、と。 一方通行は、まるでリズムを刻むように、足の裏で小さく砂利を踏んだ。 ゴッ!! と、 瞬間、一方通行の足元の砂利が、地雷でも踏んだように爆発した。 四方八方へと飛び散る大量の砂利は、言うなれば至近距離で放たれる散弾銃を連想させた。 史実ではどうだったか。 この時、上条は、多少ガードはしたものの、そんなもの薄皮でしかなく、まともに受けて吹き飛ばされた。 しかし、今の上条は違う。 全てが変えられてしまった世界でただ一人、元の記憶を持っている上条からすれば、『この当時の一方通行』の攻撃など、喰らえばもちろんダメージになるが、基本、単なる派手なだけの見せかけ、もっと言えばこけおどしにしか過ぎないことを知っている。 よって、上条は砂利による攻撃を横に飛んで避けた。 なぜなら、その攻撃は確かに『四方八方』なのだが、『範囲』は『前にいた上条』を補うものでしかなかったからだ。 同時に、その勢いを利用して、さらに前へと飛んだ。 「なに!?」 驚嘆する一方通行だが遅い。 ぐしゃり、と、上条の右拳は一方通行を捉えていた。 上条当麻は知っている。 この当時の一方通行は真正のおぼっちゃまで、その身は脆弱で打たれ弱いということを。 この当時の一方通行でも能力は桁外れだが、ただそれだけであることを。 あらゆる敵を一撃で必殺できるだけに、上手く敵を倒す技術を持っていない。 あらゆる攻撃を反射できるだけに、『避けたり』、『防いだり』することはしない。 それが身に染みてしまっているので、『能力を封じられた』時、一方通行が急転直下で『最弱』に転落することを知っているのだ。 「今の一発は、ただの警告だ」 上条当麻は、地面でもぞもぞ蠢く一方通行の背中に静かに語りかけた。 ひたり、と一方通行の動きが止まる。 「この実験に協力することを止めろ。従わないなら従うまでお前を打ち据える」 きっぱりと、力強く宣言する上条当麻。 この一方通行は聞き分けのない子供と同じなのだ。 誠意をもって話をしたところで通用しないのだ。 だったら、体で解ってもらうしかない。『悪いこと』をすれば『痛い目』に合うということを理解してもらわなければならない。 「チッ、――――吼えてンじゃねエぞ三下がァ!」 遠吠えのごとく声を荒げて、一方通行は再び、たん、と軽く地を踏む。 バネ仕掛けのように、足元に寝かされていた鋼鉄のレールが起き上がる。 同時に、再び、上条は地を蹴った。 「四ヶ月、後…………?」 御坂美琴は白井黒子の言葉に、文字通り、信じられないものを見た顔をした。 ついさっき、『白井を信じる』と言ったセリフを、心底、取り下げようかとも思った。 とは言え、ならば、どうして白井と上条がこの実験のことを知っているのかを説明できないのもまた事実なだけに半信半疑に陥った、といったところだろうか 「そんなお顔をされることは想像に難くありませんでしたわ」 白井は苦笑を浮かべた。 「アンタ……本当に四ヶ月後から来たの……?」 「ええ」 「あいつも?」 「はい、そうです」 「証拠は?」 「この冬服、ではいけませんか?」 「アンタとあいつが結託して担ごうとしている、って推測はできるわよ」 「でしたら、どうして『わたくしと上条当麻さんが顔見知り』でございますの?」 「それは、私があいつのことをアンタに話したことがあるからよ。風紀委員で……おぞましいからあんまり言いたかないけど……私の近くに来る男を片っ端から排除しようとするアンタなら調べかねないわよ」 「くす。わたくしがお姉さまから聞いたのは『あの馬鹿』という人物像だけですわよ。姿形はもちろん性別さえもお教えいただいておりませんのに、ですか? まあ『殿方』だろうという予想はできておりましたが」 「あ……!」 「さらに言えば、わたくしが上条さんのフルネームを知っていることに疑問を感じてくださいませんの?」 美琴は絶句した。 これでは、美琴の中には白井の言葉を否定できる材料が何一つない。 だったら、今度は『白井と上条が四ヶ月後から来たことを肯定する』前提で聞いていく。 「とすると、アンタのテレポートで過去に遡れたってことは、私の知っている『レベル4』の黒子じゃないってことよね。過去に遡るテレポートなんて現時点じゃあり得ないんだから」 「はい。わたくしの今のレベルは『5』でございます。わたくしの時間で三日前に、お姉さまの時間では四ヶ月後に認定を受けましたの」 「それは凄いわね。そっか、とうとう並ばれちゃったんだ」 どこか苦笑を浮かべる美琴。 もっとも、白井はそれを否定する。 「いえいえ、わたくしはまだまだお姉さまに追いついておりませんわ。そのことを最近、知らされましたの」 「どういう意味?」 「んー……なんと申しますか、実はお姉さまは本日、一方通行に追いつき追い越す予定でしたの。わたくしや上条さんが出しゃばらずともお姉さまのお力で、『レベル5』の一方通行を『退けられることはできた』のです」 「はぁ? じゃあ、何であんたたちは四ヶ月後からわざわざ来たのよ?」 「えっと、それはですね……なんと申しましょうか……」 どうも白井の歯切れが悪い。『肯定』前提で聞いて『疑問』が出てくるのだから皮肉以外の何物でもない。 「じゃあ、肝心なことを訊くわ。四ヶ月後から来て、この実験のことを知っているってことは、この実験の今後を知っているわよね?」 「もちろんですわ」 白井のわざと穏やかな振りをした回答を聞いて、意を決する美琴。 「…………この実験はどうなるの?」 「実験そのものは終了いたしておりますわ。そして、妹達は一〇〇三二号さん以下、九九六九人は四ヶ月後も存命しております」 「そう……てことは『止められる』のね……?」 美琴はどこかホッとした。 絶望の淵でもがき苦しんだ結果が、光明となって美琴の心に広がったからだ。 自身が一方通行を追い越したということも後押しした。 それなのに。 「ですが………」 白井の顔は曇った。 「黒子?」 美琴のいぶかしげな問いに言うべきか言わぬべきか。 白井の心が揺れる。 しかし、それでも言わなければならないのである。 なぜならば、 「一方通行は『レベル6』に進化しましたわ。お姉さまの命と引き換えに『絶対能力』を手に入れましたの」 再び、美琴は驚嘆に絶句した。 そういう表情を美琴が見せるであろうことを分かっていながら白井はあえて言ったのだ。 なぜならば、 それを知らないと、今、この場でも同じことが起こるかもしれないからだ。 戦闘は上条に圧倒的有利で展開していた。 一方通行に『策を練る』という概念はない。 あるのは目の前にある『道具』を圧倒的な力をもって直線的に攻撃するしか脳がない。 だから、全てが上条に読まれる。 だから、全てを上条に回避される。 「クソ。クソォ! クソォオオオオオオオオオオ!!」 己の攻撃はすべて見切られ、向こうの攻撃はすべて当たる。 しかも、相手は宣言通り、『打ち据えてくる』だけの攻撃で『本気』ではない。 そのことが分かるだけに、余計、一方通行にとっては腹立たしく屈辱的だった。 ただし、一方通行は気付いていた。 一方通行の能力が『通じない』、正確には『能力が消されてしまう』のが、相手の『右手』だけであることには気付いていた。 理由は単純だ。 相手が右手以外で攻撃してこないからだ。 左はもちろん、蹴りや頭突き、タックルと言った攻撃が来ないからだ。 とは言え、それでもどうすることもできない。 なぜなら、『相手の動きを読むことができない』一方通行では、『一方通行の動きをすべて読んでくる』相手にはまったく届かないからだ。 「…………っ! く、は、何なンだよその右手は! 何だ、チクショウ! 何だってオマエにはただの一発も当たンねえンだよ、ちくしょう!!」 どう聞いても、負け惜しみである。 この間にも上条は一方通行に拳を叩き込み続けていた。 言うなればジャブ。 相手の足を止めるための体力削ぎ。 そして、ついに、かくん、と一方通行の膝から力が抜けた。 ゴッ!! と上条はこれまでにない力を込めて一方通行を殴り飛ばした。 地を舐めながらごろごろ転がり、 「はっ……ハァ…………!?」 上半身を起してみれば、そこには上条当麻が、どこか哀れんだ瞳で見下ろしていた。 無様にも、学園都市最強は、手だけを使ってずるずると後ろへ下がる。 「レベル6って、そんなにいいものかよ」 上条はゆっくり追う。 「絶対能力、無敵を手に入れた先に何かあるのかよ。たくさんの人たちを犠牲にしてまでほしいものなのかよ」 静かに上条は言う。 右手をぎゅっと握りしめ直して、 「てめえは、頂上に辿りついた野郎がどうなるか、知ってんのか! 俺はそいつがどんなに辛く寂しく絶望に等しい日常を送っているかを目の当たりにしたんだ! それでも『無敵』という『頂点』がほしいのかよ!!」 上条は止まらない。 名前こそ明かさないが、それは四ヶ月後の一方通行の姿だ。 『無敵』を手に入れた一方通行が激しく深い後悔をしていたことを知っているからこそ。 『無敵』よりも、能力使用に制限がかかっていようと、体が不自由だろうと、それでも『傍に誰かがいてほしい』を選ぶ一方通行の泣きそうな顔を知っているからこそ。 上条当麻は、この一方通行にそうなってほしくないのだ。 上条当麻の優しさが、この一方通行を見ていると、どうしても怒りが湧いてしまうのだ。 ひっ、と一方通行の動きがピクリと止まる。 言われている意味は分からないが、目の前の相手が自分に対して言っているのだということは分かる。怒鳴られていることは分かる。 そして、それが一方通行にはとても『怖かった』。 この目の前の相手を『怖い』と思い、どこかへ行ってほしいと本気で思ってしまった。 「私が…………殺された…………?」 ようやく、美琴は言葉を絞り出して言った。 随分と長い時間、沈黙していた気がする。 それくらい、衝撃的だった。 「はい…………お姉さまは、一方通行を追い詰めることには成功しました。しかし、そのことが……『追い詰めてしまったこと』が……一方通行を、新たな『力』に目覚めさせて…………しまったのです…………」 思い出したのか。 思い出してしまったのか。 今、目の前にいる御坂美琴を直視して、耐えきれなくなったのか。 白井黒子は毅然と告げているつもりだったのに、その声は嗚咽で震えていた。四ヶ月間の寂しかった思いが体中を駆け巡ったのだろう。 その声に秘められた思いに嘘はまったくなかった。 美琴はそれを感じ取った。 「だから…………実験が終了した…………一方通行が『レベル6』になったから…………」 「そういうことです…………」 「でもちょっと待って。自分のことなのに客観的に見るのも変だけど、それが事実ならそれでいいじゃない。私は、そのつもりでここに来たんだから」 そう。御坂美琴は命を賭してこの実験を止めに来た。 経過はどうあれ、結果が同じなら、それで構わないのではないかと美琴は考えた。 自分の命で残りの妹達の命が救えたならば素晴らしいことではないか。 上条や白井が助けに来てくれたことは素直に嬉しい。 でも、それだけで充分なのである。 「…………それでしたら、わたくしたちが四ヶ月後から来ませんわよ」 しかし、どこか白井の次のセリフには怒気が孕んでいた。 「お姉さまは、目的を達成できて満足されるかもしれませんが、残された者のことを考えられましたか?」 「そ、それは…………」 「わたくしはお姉さまが亡くなられてから毎晩泣き明かしましたの。もう涙が枯れるくらい泣き明かしましたわ。それでも『それでいい』と仰りますの?」 「え、えっと…………」 「わたくしだけではありません。お姉さまのご両親はもちろん、初春や佐天さん、その他、常盤台の生徒、もちろん、妹さんも嘆き悲しんでおられましたのよ」 「で、でも……………」 「あと一方通行もお姉さまを殺めてしまったことを後悔しておりましたの。その償いに妹達を守る決意をされたほどでしたわ」 「………………………」 美琴は黙り込むしかできなかった。確かにこの当時の美琴は追い詰められていたから周りが見えなくなっていたが、『その周り』の反応を知らされると、如何に自分が愚かであったかを痛感させられる。 「だ、だけど黒子さ。事実が『史実』なら、アンタの行動も褒められたもんじゃないわよ。いくら時間遡行できるからって、『個人の我が侭』で歴史を変えるのはどうかと思う、け……ど…………」 語尾は尻すぼみになってしまうのはいた仕方ない。 なぜなら、白井がジト目で睨んでいたからだ。 もっとも、その白井も別の意味で気を取り直して、 「ですが、お姉さま。その『事実』さえも『史実』ではなかったとしましたら?」 「え……?」 「上条さんが仰っておられましたし、その証拠も提示していただきました。『お姉さまが亡き者にされた世界』こそが『変えられた世界』だとしましたら? ですから、わたくしたちはこの時間に来たのです」 「え――――!!」 三度、御坂美琴は絶句した。 上条当麻は静かに歩みを進めていた。 恐怖に硬直する一方通行を見据えながらゆっくり近づいていった。 結局は、一方通行を上条当麻が倒すしかこの実験を終わらせることがはできないのだと。 結局は、レベル0という『最弱』で、レベル5という『最強』が『最強』ではなかったことを証明するしかなかったのだと。 そう考えると、上条はどこか悲しくなった。 だから、一方通行に近づくまでに時間がかかった。 しかし、その躊躇した行動が最悪の結果を招く。 上条当麻は自分自身のことだったのに忘れてしまっていた。 しかも、四ヶ月後の一方通行も忘れてしまっていた。 『御坂美琴だけ』ならば『レベル5』でも屠ることができたかもしれない『力』のことを忘れてしまっていた。 一方通行のレベル6の力が『絶対』過ぎて忘却の彼方に追いやってしまった事実が一つあったのだ。 一方通行のレベル5の力で『幻想殺し』を超越する力が、一つだけあったのだ。 それは、上条の前髪が『夜風』になぶられ、まるで墓地に咲く名もない花のように揺れていたことを発端とする出来事。 (……、風?) と、追い詰められていた一方通行は気が付いた。 四ヶ月後の一方通行が『忘れてしまっていた』ために『伝えていなかった』ことに気が付いた。 この場にいる上条当麻も『本来の史実』だったのに『忘れてしまっていた』ことに気が付いた。 「く、」 一方通行は笑う。上条は思わず立ち止った。 しかし、それは一方通行にとってはどうでもよかった。『この距離』なら気付いてももう遅いからだ。 「くか、」 一方通行の力は触れたモノの『向き』を変えるというもの。 運動量、熱量、電力量、それがどんな力かは問わず、ただ『向き』があるものならば全ての力を自在に操るもの。 「くかき、」 ならば。 この手が、大気に流れる風の『向き』を掴み取れば。 世界中にくまなく流れる、巨大な風の動きそのすべてを手中に収めることが可能――――! 「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこかくけきかこけきくくくくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきこきかかか――――ッ!!」 轟!! と音を立てて、風の流れが渦を紡ぐ! 一方通行が両手で何かを掴もうとするがごとく天に突き上げたその先で。 上条の顔色が変わった。そして、今ここで思い出した。 一方通行の『ベクトル操作』の中で、上条当麻の『幻想殺し』が唯一防ぐことができなかった『力』。 しかし、もう遅い。 殺せ、と一方通行は笑いながら叫んだ。 刹那、世界の大気を纏め上げた破壊の鉄球は風を切り、風速一二〇メートル――――自動車すら簡単に舞い上げるほどの烈風の槍と化して、見えざる巨人の手は、上条当麻をいともたやすく吹き飛ばした。 「何ですの!?」 白井は説明を中断して声を上げた。 予期せぬ事態に、一瞬、何が起こったか分からなかった。 突然、台風以上の暴風が吹き荒れたと思ったら、上条当麻の体がその風に呑み込まれて鉄塔に激突し、しかも、結構な落下距離を頭から地面に落ちたからだ。 しかも、ピクリとも動かない。 「嘘…………」 別の意味で美琴は言葉を失くした。 それは、傍にいた妹達も同じだった。 白井と美琴が、ある意味場違いな会話をかわせたのは、上条当麻が一方通行を圧倒していたからだったのだ。 それがいきなりの大逆転劇を見せられてしまえば、言葉を失っても仕方がないと言える。 「…………咄嗟に思い付いたンだが、こりゃ、相当の威力だなァ……『反射』とは違って、『向き』を自分の意思で変更させる場合は『元の向き』と『変更する向き』を考慮しなけりゃなンねェわけなンだが………この付近の『大気』だけでもこの威力…………くっ、」 一方通行は笑い出した。 「クッ……カッーカッカッカッカッカッカッ! なるほどな! 確かに『強い相手』と戦うとレベルアップするってのは本当のようだなァ! 三下ァ!!」 そのまま、再度、両手を開き、天へと掲げ、 「何だ何だよ何ですかァそのザマは! 結局デカイ口叩くだけで大したことねェなァ! おら、もう一発かましてやるからカッコよく敗者復活してみろっての!!」 はっきり言って、本当に子供のようだった。 追い詰められていたのは一方通行の方だったというのに、有利になった途端、この悪態である。 しかし、それでも上条は返事ができなかった。 いや、聞こえているかどうかすら怪しかった。 「空気を圧縮、圧縮、圧縮ねェ。はン、そうか。イイぜェ、愉快なこと思いついた。おら、立てよ。オマエにゃまだまだ付き合ってもらわなきゃ割に合わねェんだっつの!!」 「くっ! やっぱり私が!」 美琴は歯を食いしばり、ポケットからコインを取り出して、駆け出そうとするが、 「お待ちになってくださいお姉さま! お姉さまが戦ってはなりません!」 それを白井は、美琴の眼前にテレポートして制止した。 「どきなさい、黒子!」 「いいえ! お言葉を返すようで申しわけございませんが、お姉さまと一方通行を戦わせるわけにはいかないのです!」 「何でよ!? アンタのさっきの言葉が正しいとするなら私は一方通行を追い詰めることができるんでしょ!? だったら、あいつの窮地を救えるのは私だけってことになるじゃない!!」 「だからですわ! 『レベル5』の能力者が一方通行を追い詰めてはいけないのです! それが一方通行を『レベル6』に引き上げる原動力になるのですから!!」 美琴以上の音量で言い募り、美琴が黙り込んだところで、白井は太もものホイルスターから一本、金串を抜いた。 「ですから! ここはわたくしの出番ですわ!!」 吼えて、白井は振り向きざまに金串を投げた。 一方通行めがけて、一方通行の起こした大気の流れを突き切るように金串は疾走する。 「あン?」 一方通行の頬を何かがかすめていった。 少し切れたのだろう。細い赤い糸が伝っている。 即座に、視線を今、何かが飛んで来た方へと移す。 そこには一人のツインテールの少女が一方通行を睨みつけていた。 同時に一方通行は大気の演算を止めた。 空気の塊は拡散し、周りに吹き荒れていた暴風も弱まっていった。 『大気の演算』を放棄するほど、一方通行はそのツインテールの少女に興味を持った。 白井黒子の、一方通行のレベルを知って、なお、上条当麻のように恐れを為していない眼差しに多大な興味を示したのだ。 「お姉さま! ここはわたくしが一方通行の相手をします! お姉さまは上条さんを!」 「でも!?」 「わたくしを信じて下さいませ! お姉さまが戦われるよりも、わたくしの方がまだ可能性はあります! 一方通行を進化させない可能性が!!」 白井黒子は振り向きもせず、一方通行に視線を合わせたまま、美琴に促した。 そして、美琴はそれが何を意味するかを瞬時に悟った。 相手が『レベル5』では、一方通行が『レベル6』という絶対に進化してしまう危険性がある以上、この時間では『レベル4』としか記録に残っていない、しかも『レベル5』がいない『テレポーター』の白井黒子【レベル5】で、一方通行をペテンにかけるしかないことを。 そして、そういう風に考えたということは御坂美琴は信じたのだ。 この上条当麻と白井黒子が四ヶ月後の世界から、『美琴が殺されてしまった世界』を『美琴が助かった世界』に戻すためにやってきた来たことを。 とは言え、疑問も残っている。 どうして上条当麻が『変えられた世界』であることに気付いたのか。 どうして上条当麻が『御坂美琴が救われた世界』に拘っているのか。 この二点だけは、どう考えても分からなかった。 しかし、そんな疑問など今の美琴にとってはどうでもよかった。 そんな疑問に構ってられる上条当麻の様子ではないからだ。 これ以降、御坂美琴の頭の中に『この疑問』が呼び戻されることはなかった。 「う、うん! 分かったわ! けど無理するんじゃないわよ!」 美琴もまた、頷いて、同時に妹達を背負って、上条の元へと向かう。 鉄塔に激突した上条は地に突っ伏して、いまだピクリとも動かない。 「なァンだァ? テメエごときに俺の相手が務まるとでも思ってンのかァ?」 凶悪な笑顔を浮かべて嘲る一方通行。 対する白井黒子は太もものホイルスターから鉄串を抜いて、右手の人差指、中指、薬指の間に二本挟み構えた。 実は、白井には勝算があった。 一方通行を倒して、御坂美琴を助け出し、そして実験を終わらせる勝算が。 (この当時のわたくしのデータバンクは『レベル4』。でしたら、今、この場でわたくしが一方通行を撃破しても一方通行は『最強ではない』と判断されますの) という目算が。 しかしである。 それはそのまま、白井黒子の弱点ともなる。 なぜならば、 (ただ、わたくしの攻撃手段はわずか二投…………しかも、ベクトル気流を見極めての攻撃は一回だけですわ。二度の偶然はあり得ない、と、この一方通行も考えるはずですからね。そうなると、わたくしがレベル5であることがバレてしまいますの……) 白井の頬に緊張の汗が伝う。 それは白井が『レベル5』だと相手に悟られてはいけないからだ。 もちろん、『レベル5同士の戦いだから、たとえ一方通行が負けたとしても、誤差の範囲内と判断されるから』ではない。 単純に『レベル5の一方通行』であれば、今の白井黒子は負けない自信がある。 それは一方通行の能力発動時に発生する『ベクトル気流』が見えるので、その間隙を縫うことができるからだ。 しかし、問題は一方通行が『レベル6』に進化する前に倒さなければならない点にある。 白井の知っている一方通行は御坂美琴との戦いで『レベル6』に進化した。 それも一方通行本人から聞かされたのだから疑う余地はない。 と言うことはつまり、それは『レベル5』に追い詰められたからこその進化であると結論付けられるわけだから、『レベル5』の白井黒子が一方通行を追い詰めてしまうと、『レベル6』に覚醒する可能性を孕んでしまっているということだ。 だから、白井が『レベル5』であることを悟られてはならない。 一回であれば、一方通行も偶然で片付けるだろうが、二回目を絶対に偶然と判断するわけがない。 『縁』であれば二回目でも偶然で片付けられるが、『命』がかかった出来事の二回目を『偶然』と思うわけがない。 だから最大でも、おとりを含めて二投までしか金串攻撃は許されないのだ。 御坂美琴と妹達は上条当麻の元へと辿り着いた。 一方通行の注意が白井黒子に向けられたので、あっさり辿り着くことができたのだ。 「ちょっと!」 即座に美琴は上条の手を取った。 同時に何か生温かいぬるっとした感触があった。 「―――――っ!!」 一瞬で全身の血の気が引くのを感じる美琴。 それは妹達も同じだった。 最悪の可能性が過った。 白井黒子はテレポートを駆使して、一方通行の砂利散弾攻撃をかわしていた。 「ギャハハハッ! やるじゃねェか! テレポーター! このスピードでも空間把握ができるなんざ大したもンだぜ!」 しかしまだ金串を投じてはいない。 一方通行の感心なのか馬鹿にしているのかよく分からない哄笑が届くが、そんなことくらいで白井がキレることはない。 間合いは取ったまま、縦横無尽にテレポートを繰返し、かわし続ける。 例えるなら、『とある科学の超電磁砲S』OPムービー、『Sister s Noise』の二回目の「彷徨う心の~」辺りの、麦野沈利のメルトダウナーの攻撃を回避するテレポートを白井一人で繰り返している、そんな感じだった。 実は今の白井は十一次元に瞬間ではなく、一時的に一定時間、身を置くこともできるのだが、それをやるのもご法度なのだ。 とにかく白井黒子は一方通行に自身が『レベル5』であることを悟られるわけにはいかないのだ。 「オラオラオラオラ!! どこまで避け続けることができるかなァ!!」 一方通行は本当に楽しそうに砂利散弾を撃ち続ける。徐々にそのスピードを加速させながら。 「お姉さま……この方は息をしておりません、とミサカは震える声で報告します」 「分かってるわよ!」 妹達のどこかガクガクしながらの現状報告に、自分の嘆きを吹き飛ばすように声を荒げる美琴。 もちろん、妹達にも分かっている。 美琴が、上条当麻の現状を危惧している苛立ちを爆発させただけだということを分かっている。 白井黒子はランダムテレポートを繰り返しながら隙を探っていた。 この当時の一方通行は『レベル5』で、実際に当時最強なのだが、その最強を『過信』する『驕り高ぶった』最強だった。 対する白井は絶対に油断しない。驕った『最強』でしかない、今の白井なら『負けることはない』一方通行と言えど、油断はしない。 なぜなら、どんなに傲慢だろうと、この一方通行が『レベル6』に進化する可能性を秘めていることを知っているからだ。 だから白井は油断しない。 ましてや白井の手数はわずか二手。そのことが『絶対に油断できない』緊張感を生む。 一投目でベクトル気流を読み切り、二投目を一方通行の眉間めがけて投擲する。 間合いを間違えなければ今の白井の金串にはピアノ線が付いているので、金串が脳を貫く寸前に引っ張り出し、最小のダメージで一方通行を倒すことができるのだ。 今、この場の勝利とは何か。 それは、御坂美琴の命を救い、一方通行の命までは奪うことなく『気絶』させて倒すこと、ただ一つだ。 (来た!) 白井は心の中で快哉を叫んだ。 「オラァ!! 今度はどうだ!!」 一方通行が十数本に切断したレールを弾丸として、白井目がけて放ったのだ。 砂利とは違い、レールはある程度の太さと長さがある。 つまり、目くらましに使えるのだ! 瞬時に、白井はレールの間隙を縫うようにテレポートを繰り返す! 「ぬ?」 「はぁっ!」 完全に右手がレールの死角に隠れる瞬間を見逃さず、白井は金串を投げた。 反射でかわされても構わないおとりの金串を。 一方通行の頭部めがけて、だいたい100キロ前後のスピードで風切り音を立てて向かっていく。 「ハン! 無駄無駄ァァァ!!」 当然、一方通行は自分の目の前に迫った金串を『反射』、正確には『金串のベクトル』を操作して、あらぬ方向へと飛ばした。 (今ですわ!) 心の中で吼えて、同時に白井はもう一投! 今度は一方通行の『ベクトル操作』が作用しないはずの一撃を放った! 「ン?」 一方通行からいやらしい笑みが消えた。 何か探るような視線をその金串に向けていた。 そして、 一方通行は、サイドステップを踏んで、その金串を『避けた』。 「なっ!?」 当然、驚愕する白井。 思いがけない一方通行の行動に動きが止まったのだ。 「ほォ、テメエ、なかなか面白ェ真似するじゃねェか…………俺の『ベクトル操作』時に『ベクトルの流れ』を見極めて、その間隙を付いてくるとはなァ…………」 一方通行は凶悪な笑みを浮かべた。 「さてはテメエ、『レベル5』クラス、だな? テレポーターの『レベル5』なンざ聞いたことなかったが、俺の『ベクトルの流れ』が視えるとすりゃァ、三次元を十一次元変換して空間把握する『テレポーター』以外、考えられンぜ。それも俺と『同レベル』じゃねェと、『視える』はずもねェ」 「馬鹿な! どうして、それが解りましたの!? わたくしの『視覚による攻撃』は今のが最初ですわよ!!」 白井は叫んだ。 最初からいきなり、見破られるとは思ってもみなかったからだ。 しかし違うのだ。 一つ、白井黒子はミスを犯していた。 そして、それは致命的なミスだった。 「『今のが最初』?…………クックックック……違うんだなァ……テメエの今のは『二発目』だったンだぜ……ホラ、覚えてねェか? オマエ、あの男からオマエに俺の注意を向けさせンのに、牽制で『一回』投げたのを」 「あ――――!」 指摘されて白井は愕然とした。 一方通行の言う通りで、あの時に一回、金串を投げていたのだ。 しかもそれは、絶対に白井に注意を向けさせなくてはならなかったので、『ベクトル気流』を見定めての一投で『一方通行の頬にかすらせた』のだ。 一方通行からすれば、当然、その時に疑問を抱く。 そして今の一撃だ。二度の偶然はない。 そう結論付けるには充分だ。 つまり、今の一撃は『三投目』だったのだ。 「くっ……」 白井は歯噛みした。 一方通行に自身が『レベル5』であることがバレてしまったから。 「さァて、テレポーター…………テメエに『ベクトルの流れ』が視えるってことは、俺に近いレベルがあるって意味だ…………こいつは正直、このダルイ実験よりもやり甲斐がありそうだぜ…………」 一方通行が白井黒子を『敵』として認識した。 それはすなわち、一方通行が、妹達や美琴を相手にしていた時とは違い、白井を相手にするときは遊ぶことも勿体つけることもしない、という意味だ。 当然だ。 格下が相手であれば、『真面目』にやるはずがない。『楽しむ』ために『余計なことをする余裕』があるものだ。 しかし、相手が『実力が近い者』となれば、自身が『倒される』危険を孕む。そんな状況下で余裕をぶっこけば、寝首をかいて下さいと言っているようなものだから『真面目』にやる。 だから、生成に時間がかかる『大気のベクトルを操った攻撃』を『最初から』中断したのである。 「今夜はなかなか楽しい夜だ。さっきの野郎のおかげで俺は『大気を操る』力を手に入れたわけだが、テメエは俺に何をくれるかね? 強い相手とやるのは『成長の近道』だからなァ…………」 ただ、それでも一方通行は白井に負けるとは思っていない。 『視える』だけでは『油断さえしなければ』なんとでもなるからだ。 四ヶ月後の一方通行が白井に、ある意味追い詰められたのは、『レベル6』の力で脱することができる自信があったから『油断』したためだ。 「……………っ!!」 白井は頬に汗を浮かべて、再び金串を構えた。 しかし、攻撃するわけにはいかない。 それは最悪の結果を招くことを知っているからだ。 そして、それは、防戦一方になることを意味しているのだ。 当然、結果は見えている。 美琴は白井と一方通行の戦闘に視線を移さざるを得なかった。 白井が、ずっと耐え忍んでいた一方通行の攻撃をまともに喰らい、吹き飛ばされたからだ。 一方通行が砂利の上に着陸し、白井は態勢をまともに崩して、肩から落ちた。 ぐしゃっと言う嫌な音がした。 「…………っ!」 美琴は唇を噛み締めた。 妹達だけじゃない。 自分のことでいったいどれだけの人間が傷つくのだ、と泣きたくなった。 自分の所為でいったいどれだけの人間を一方通行の生贄にしてしまうのだと自責の念に駆られた。 ―――――!! 次の瞬間、美琴は息を呑んだ。 なぜなら、白井が立ちあがったからだ。 小さくないダメージがあるだろうに、 息も絶え絶えなのに、 全身がふらふらなのに、 それでも立ち上がったのだ。 それが意味することはたった一つだ。 白井黒子は、命をかけて御坂美琴、上条当麻、妹達に決して一方通行の注意が向かないようにしようとしているのだ。 (なんでッ……) 美琴は嘆いた。 (なんで私は……こんなに弱いの?) 美琴は慟哭した。 (常盤台のエース? 七人だけのレベル5?」 美琴は自分自身を否定したくなった。 (なにもできないじゃないッ――――妹達を守ることも、一方通行を止めることも、コイツの怪我を治すことも、黒子を助けることも――――) 美琴は心の中で絶叫した。 しかし、美琴が絶叫したところで何も変わらない。 奇跡は待っていたって起こらないのだ。 美琴は今、自分の足元を見た。 そこには、上条当麻が髪の影で瞳を隠し、口を少し開けたまま、血まみれの状態で横になっている姿しかなかった。 正面にいる妹達は、そんな上条を沈痛の眼差しで見つめるだけだった。 が、 白井黒子を一方通行から救い出す手段は一つしかない。 (……こんな状態のコイツに私は何を…………) 心の内に罪悪感が広がる。 一瞬、ためらいが生まれる。 しかし、その躊躇いは向こうから聞こえてきた、衝撃音によって吹き飛ばされる。 白井が、再び一方通行の攻撃を受けてコンテナに激突した音だったからだ。 「……無理を言っているのは分かってる…………どれだけ酷いことを言っているのかも分かってる…………」 美琴の声は震えていた。 理屈は分からないが、この少年が持つ『能力を無効化する力』。 それこそが、この場で一方通行を止めることができる唯一の手段であることを分かっている。 「でも、アンタにやってほしいことがあるの……ううん、アンタにしかできないことがあるの!!」 美琴の瞳から涙が落ちていた。 その涙は上条の頬で跳ねていた。 「私じゃ……みんなを……守れない……から……だからっ……お願いだから!」 白井黒子は言った。 レベル5が一方通行とは戦ってはならない、と。 レベル5が一方通行と戦うと一方通行を無敵にしてしまう危険性を秘めていると。 だとすれば、 今、この場で一方通行を倒す手段は、美琴自身も知っている『上条当麻というレベル0の力』しかない。妹達では相手にすらならない。 「黒子を、妹達を、――――そして、私を助けて!!」 心肺停止状態の場合の人工呼吸の基礎。 泣き叫んでから、御坂美琴はありったけの気持ちを込めて上条当麻の体内へと、生命の息吹を吹き込んだ。 上条当麻は、暗闇の中、柔らかな光が差し込んできたのを感じた。 全ての感覚が失せていたはずなのに、その光を『暖かい』と思えた。 自身の口元を中心に広がる暖かい感覚が、波紋のように全身に広がっていき、失いつつあった生命が再び活動を始めたことを認識した。 同時に聞こえてきた。 誰かの必死の思いが。 誰かの泣き叫ぶ声が。 誰かの切なる願いが。 内容はまだ遠くに聞こえていたので届かなかったが、上条は『その誰かの気持ち』が言葉ではなく心で理解できた。 まだ動ける。 ならやることは一つしかない。 上条の命の炎を再点火してくれた、その人物に報いなければならない。 上条当麻の意識は再覚醒する。 ピクっと指が動いた。 次いで、閉じられたまぶたがギュッと引き締まった。 美琴は、上条の体が反応したことに気付き、即座に離れて上条の顔を見やる。 血の気の失せていて蒼白だった表情に赤みが差していた。 もちろん、それは羞恥という意味ではない。 上条の体に、再び命の炎が宿ったという意味だ。 上条が静かにまぶたを上げる。 「み、さか…………」 「あ…………………」 目の前にあったくしゃくしゃな顔の本人に呼び掛ける上条と、今度は嬉し涙が伝う美琴。 美琴の口元に付着している赤いものは美琴のものか上条のものか。 「そうか……お前が俺を呼んだのか…………」 「うん…………」 全身に力を入れて上条は起きようとする。 刹那、さらに聞こえてきた激突音。 上条、美琴、御坂妹は反射的にそちらへと視線を移す。 そこには、 「クックックックック……よく頑張ったじゃねェか、オイ。何で攻撃してこなかったのかは分からねェが、それでもテメエはよくやった。まァ、これで終わりだ。退屈でツマンネエ実験よりも面白かったぜェ」 「くっ………」 白井は座り込み、まだ戦意は失っていない瞳で睨みつけるしかできなくなっていた。 そんな白井へと一方通行が手を伸ばす。 白井にトドメを刺そうと手を伸ばしてくる。 白井にはすでに避けることもテレポートで逃げることもできないほど、体力は低下し、全身の激痛が能力発動を拒む。 「終わり、だ」 がさり………… 呟いた一方通行の背後から、本来であれば耳をすましていなければ聞こえないほどの物音が聞こえてきた。 一方通行の動きが止まる。瞬時にその背に冷たい汗が浮かぶ。 「まさか!?」 一方通行はバッと勢いよく、振り返った。 そこに信じられない光景が広がっていた。 確かに息の根が止まったことを感じていたのに。 確かにもう動くはずがないと思っていたのに。 それなのに、そこにボロボロで血まみれの上条当麻が立ちあがっていたのだ。 (そんなはずはねェ! アレで生きていられるわけがねェ!!) 同時に上条がおぼつかない足取りでこちらに向かってきた。 ジャリ…… 「!!」 一方通行は自分の足が一歩後退したことに驚嘆した。 「チッ……」 ぎりっと歯を食い締めてから、心を落ち着かせようと、一度佇まいを直して、 (何、あんな死に損ないにビビってやがる……アイツはもう、歩くのがやっとの野郎だぞ……立ち上がったこと自体、奇跡って野郎なンだぞ…………) 理性は告げている。 あんなボロボロの者など、触れただけで粉々にできる。 速やかに実験を終わらせるなら、目の前のテレポーターと、奴の後ろにいるオリジナルを片付けて、クローンにトドメを刺してからでも充分大丈夫だと。 優先順位からすれば一番最後で構わない、と。 直接触れるのが嫌なら、その辺りにあるレールやコンテナの雨でも降らせて押し潰してしまえばいい、と。 しかし、一方通行はどこか本能的な部分でアレに背を向けることを拒んでいた。 どんな状態であれ、あの男がこの場における最大の敵であるが故、少しでも生き永らえさせてはいけないと考えてしまっていた。 絶対に『自分の手』で葬り去らなければならない相手だと感じていた。 「面白ェよ、オマエ――――」 一方通行は最初の標的に上条当麻を選んだ。 かいたこともない冷や汗を浮かばせながら、どこか鼓舞するように言った。 「――――最ッ高に面白ェぞォォォォォおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 吼えて、一方通行は足の裏のベクトルを操作して、弾丸のように飛び出した。 ありがたい、と上条は思った。 本来の、上条の知る史実の八月二十一日同様、そう思った。 だとすれば後の展開も見えている。 『先』を知っている者と『先』を知らない者。 しかし、その『差』はレベルを超越する。 上条はギュッと拳を握った。残されたわずかな力すべてを振り絞って握った。 一方通行の右の苦手、左の毒手。 ともに触れただけで人を殺せる一方通行の両手が、上条の顔面へと襲い掛かる。 まったく同じだった。 だから、上条は小さく笑った。 これで、歴史が元に戻る――――そう思えたから笑った。 一方通行に悟られることもないほどの小さなものでしかなかったが。 それでも上条は勝利を確信した。 残された最後の力で、上条は頭を振り回すように身を低く沈めた。一方通行の右手が虚しく空を切り、左の毒手は上条の『右手』に払われた。 「歯を喰いしばれよ―――― 一方通行――――」 上条は言った。 上条の知る八月二十一日とは、わずかに違うセリフで。 なぜなら上条当麻にとっての『最強』は目の前の一方通行ではなかったから。 なぜなら上条当麻にとっての『最強』はこの世界に送ってくれた『無敵』の一方通行だったから。 「――――この一撃はは四ヶ月後のお前から今のお前の目を覚まさせるよう、託されたもんだぁぁぁああああああ!!」 瞬間、 上条の拳はうなりを上げて一方通行の顔面に突き刺さり、その白い華奢なが勢いよく砂利の引かれた地面へと叩きつけられ、乱暴に手足を投げ出しながらゴロゴロと転がっていった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/御坂美琴の消失
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/上琴の戦い 上琴VS吹寄 ・街中にて 上条「そろそろどこかで晩飯食うか?」 美琴「うん!どこ行く?」 上条「いい店知ってるんだ「あら?上条じゃないの。」けど……?」 吹寄「こんな時間に何やってるの……ってデートのようね。」 上条「(今度は吹寄か……)」 美琴「(えーとこの人は……確か当麻のクラスメイトだっけ?)」 上条「吹寄はなんでここに?」 吹寄「なんでってちょっとそこのコンビニに買い物に来たのよ。それより上条?」 上条「……なんでせうか?」 吹寄「こんな時間までデートしてるから補習になるのよ!少しは抑えなさい!」 美琴「!!(わ、私のせい……?)」 美琴「(そういえばこんな時間まで私といたら勉強する時間なんてないわよね……)」 上条「おい吹寄、それは関係ねーよ。」 美琴「ッ!!?」 上条「俺はちゃんと勉強した上でデートしてるんだ。だからデートのせいで補習になってるわけじゃない。」 美琴「当麻……」 上条「それで俺が補習になるのは単に他のやつより頭が悪いだけだ。」 美 吹「「威張ることじゃないでしょ!!」」 吹寄「全く……まあデートはいいけど1度でも補習サボったらどうなるかわかってるわよね?」 上条「ッッッ!!??」ギクッ 吹寄「……上条、その反応はまさか……サボったの?」 上条「ええっ!?な、なんのことやら……補習をサボるなんて大それたこと上条さんがするわけ……」 吹寄「じゃあ今から小萌先生に確認とるわね。」 上条「すいませんサボりました!!!!!」ドゲザッ 上条「どうしてもどうしても美琴とデートしたくてサボってしまいました!!!」 美琴「(……なんでこんなビビってるの??)」 吹寄「……わかったから立ちなさい上条。」 上条「あ、ああ……」 吹寄「それで……お前は反省している?」 上条「そ、そりゃもちろん!」 吹寄「そうか……じゃあ1発で許してやろう。」 上条「へ―――」 吹寄「ふんっ!」ドガッ 上条「ぐおぅ!!?」ドサッ 美琴「ッッッ!?(頭突き!?)」 美琴「ちょっと当麻大丈夫!?」 上条「おぉぅ……」 美琴「なんてことするんですか!!当麻を傷つけるんなら先輩でも許しませんよ!!」 吹寄「……じゃあ補習をサボった上条は悪くない、というのね?」 美琴「え!?いやそういうわけじゃ……」 吹寄「というかね、アナタも彼女なら上条にちゃんと補習に行くよういいなさい!」 美琴「!!あ、えと…すみません……」 吹寄「じゃあこれからは気をつけてね?それじゃ私はコンビニに行くから。」 美琴「……強い…」 上条「……痛い…」 WINNER 吹寄 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/上琴の戦い
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【名前】御坂 美琴(みさか みこと) 【出展】とある魔術の禁書目録 【種族】人間 【性別】女性 【声優】佐藤利奈(参加者関連はコープスパーティーの中嶋直美、ハヤテのごとく!の牧村志織と東宮康太郎とエイトやモブ、BLEACHのモブ それ以外のキャラクターはアオイシロのナミ、アマガミの棚町薫) 【年齢】14歳(意外な話だが古手梨花、北条沙都子に次いでロワ参加者では幼い(白井黒子が該当する場合もするかもしれない、北条かりんと長沢勇治は年齢不明だがおそらく彼女より年上と考えられる)持田由香より年下だと……) 【職業】中学1年生 【外見】化粧がいらない程度に整った顔、茶髪で短髪、胸はつるぺた。校則により大体制服着用。中学生女子にして身長が高い、というか高すぎる(161cm) 【口調】 一人称は「私」、二人称は「あんた」。 直情的な言動が多い。仲良い人や不良に対してタメ口だが目上の者にはタメ口は使わない。 【概要】 常盤台中学の1年生の学園都市第3位の超能力者、通称レベル5である。 白井黒子や常盤台中学では憧れな存在でファンも多く黒子からは「お姉様」と慕われているが黒子からはそれ以上の感情もあり、日々美琴の貞操は危ない状況である(中の人達の組み合わせにこんなのと似た状況がコープスパーティーにもあった気が……)。 幻想御手(レベルアッパー)事件の約1ヶ月前にひょんな事で上条当麻と知り合う。 絶対能力進化実験にて自分のクローンである妹達を守る為、学園都市最強の超能力者である一方通行と敵対する。 序盤は科学サイドの話にしか登場せず出番も戦闘シーンも少なめであった。 【能力】 超電磁砲(レールガン) 発電能力における最高の能力。 基本の攻撃は速度と連射性に優れた直接電気を放出する。最大電圧は10億ボルト。落雷を落とすことも可能。 彼女の代名詞にゲームセンターのコインに電磁加速を加えて指で音速の3倍以上の早さで放つ技がある。射程距離は約50m。 当然制限ありでレベル3ぐらいの威力まで落ちている。 以下、王道ロワイアルにおけるネタバレ有 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。 御坂美琴の本ロワにおける動向 初登場話 023 夢想曲 最終登場話 075 学園黙示録 登場話数 3話 スタンス 対主催 現在状況 一日目の早朝、高校付近 キャラとの関係(最新話時点) キャラ名 関係 呼び方 解説 初遭遇話 上条当麻 友好 あんた ※未遭遇 白井黒子 親友 黒子 百合? ※未遭遇 一方通行 敵対 一方通行 妹達をたくさん殺害された ※未遭遇 来ヶ谷唯湖 敵対 襲われる 023 夢想曲 鳴上悠 仲間 鳴上 助けられる、共に行動 023 夢想曲 ウルキオラ・シファー 仲間 ウルキオラ 共に行動 040 エンドブレイカー! 前原圭一 友好 075 学園黙示録 朝比奈みくる 友好 075 学園黙示録 音無結弦 敵対 マーダーと誤認する 075 学園黙示録 桜井智樹 不認知 マーダーと誤認される 075 学園黙示録 ゲーム開始時早速来ヶ谷唯湖から襲われる。 制限された能力にも怯まない姉御。 ピンチに駆けつけたのは番長こと鳴上悠。余談だが美琴は悠を番長と見破る。だがシスコンはまだ見破っていない。 2対1になり姉御は撤退。 姉御の次はウルキオラ・シファーと出会う。そこで番長の本気を見る。 高校にて前原圭一、朝比奈みくると出会うが……。
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/御坂美琴の消失 第7章(前編) 少女は走っていた。 夜の学園都市を駆け抜けていた。 向かう場所は第一〇〇三二次実験に割り当てられた操車場。 (…………ここには何でも解決してくれるママはいない) 前日、公園で子猫を愛でていた自分のクローンに出会ってしまった。 彼女は無情にも悪夢のような実験が継続中であることを少女に告げた。 少女の胸の内に絶望の二文字が広がった。自分のしてきたことが徒労に終わり慟哭した。 その場にいたクローンに八つ当たりしてしまうほど気が狂いそうになった。 だからと言って諦めるわけにはいかなかった。 夕方、最後の手段として考えていた『樹形図の設計者』を狂わす、という作戦は頓挫した。三週間ほど前に何者かに破壊されたことを知ってどうにもならなくなった。 (…………神頼みしたって都合よく奇跡なんて起こらない) その足で、放心状態で近くにある研究施設をぶっ潰した。 しかし、その場で内なる声が『無駄』であることを残酷にも告げてくれた。 どうすればいいか分からなくなった。 時間が来るまで鉄橋で泣いた。たった一人で泣いた。 誰にも見られることも聞かれることもなくたった一人で弱音を吐いて涙を落した。 どうにもならない無限地獄の中、たった一人で思い悩んだ少女は一つ結論を出した。 (…………泣き叫んだら来てくれるヒーローなんていない) 少女は心中でずっと叫んでいた。 誰かに縋りたかった。 助けてと願っていた。 しかし、それは叶わない願い。 一万人以上も見殺しにした自分に救いの手が差し伸べられることはないことを突き付けられた現実。 だったら、自分も命を賭けて。 自分の手で実験を中止に追い込むしかない。 そう考えて少女は走り出した。 (……………………、) 本当はたった一人。 自分の味方をしてくれそうな少年が現れてくれることを心のどこかで期待していた。 しかし、その少年は現れなかった。 幾度となく勝負を挑んで、それでも勝てなかった少年。 レベル5の自分を凌駕するその少年ならば。 いつもなんだかんだ言いながら付き合ってくれる優しい少年ならば。 全てを打ち明ければ助けてくれるような気がしていたのだ。 しかし、少年は現れなかった。 一万人以上も見殺しにした自分を構ってくれる存在がいることを期待するなんて虫が良い話だ。 少女はそう考えて苦笑を浮かべた。 そして、到着した。 思った以上に時間を食っていた。 第一〇〇三二次実験場。 命を賭ける、と思っていながら、体は恐怖に竦んでいたのかもしれない。 そう思った。 しかし、目の前の現実を見せられて全ての思考は吹っ飛んだ。 居ても立っても居られなくなった。 即座に現場に飛びこむ。 「その子から離れなさい!」 まっすぐ、相手を見据えて叫んだ。 「あン?」 対して、相手は肩越しにこちらに視線を向けてきただけだ。 もっとも、それだけで少女の中に再び絶望的な恐怖が渦巻いてくる。 だからと言って逃げ出すわけにはいかない。 ここまで来てしまった以上、やるしかない。 「その子から離れなさいって言ってんのよ!」 少女=御坂美琴は吼えた。自らを奮い立たせるためにありたっけの声を出して叫んだ。 自分のクローン=妹達の無残な姿を見せられて。 でもまだ、生きている姿を確認できて。 今度は、殺される前に飛び出せた。 あの日は、『車両』だったが、今回は妹達に『コンテナ』が落ちてくる前に飛び出せた。 もう逃げることはできない。 もうやるしかない。 「何だ、またテメエか……あ~あ、参ったねこりゃ。前にコイツらにはテメエには手を出すな、って言われてンだが、ソイツをぶっ殺すにやテメエを排除するしかねエしなァ。オイ、先に言ってやる。死にたくなかったら消えろ格下」 相手=一方通行は御坂美琴を見据えてぶっきらぼうに、面倒臭そうに呟いた。 「馬鹿言わないでよ。だったら、この場に飛び出してこないわよ」 が、美琴は、頬に恐怖の汗を浮かばせながらも一方通行を睨みつけて言い返す。 全身が恐怖で委縮しているのは分かっている。 それでも御坂美琴は一方通行の前に立ちはだかる。 「じゃあ何? 殺されても文句は言えねェってことになるンだが構わねェか? 俺自身はソイツを殺さねェと今日の実験が終わらねェ。前回は『終わった後』だったから、アイツらは止めに来たけど、今回は止めに来ねェぜ?」 「承知のうえよ!」 「ほぉ…………そンじゃま、始めっとすっか……?」 呟き、一方通行はすっと両手を柔らかく握って軽く開き、 同時に、美琴はポケットからコインを取り出して構えた。 「あン? またそのシケた『切り札』なの?」 「うるさい! 今度こそアンタに当ててやる!」 言い募る美琴だが、それは建前でしかない。 当然だ。 美琴はこの実験を終わらせるために『自らの死』を選んだ。しかも、それは『樹形図の設計者』が導き出した一八五手の決着ではなく、最初の一手という『実験の根本』を覆そうという手段で。 つまり、反射される『超電磁砲』をその身に受けて全てを終わらせるつもりなのである。 「いっけえええええええええええええええええええええええええええええ!!」 咆哮一閃! 美琴は勢いよくコインを弾いた! 音速の三倍で解き放たれたクリムゾンのエネルギー破。 通常の相手、一方通行と『あの馬鹿』以外の相手であれば一撃必殺の美琴の切り札。 おそらく、第二位の垣根提督や第四位の麦野沈利でさえも、自らの能力と相殺はできても弾き返すことはできないであろう光の弾丸。 その身に受ければ、御坂美琴自身も粉々になるであろう閃光を一方通行めがけて解き放ったのだ! 「けっ、無駄だ無駄だ」 嘲笑を浮かべて一方通行が『反射』! 光の弾丸は、今度は美琴へと狙いを変える! 美琴はその身に受ける覚悟を固めていた。 いや、固めていたはずだったのだ。 しかし―――― 「なっ!?」 美琴は解らなかった。 気がつけば、回転レシーブの要領でかわしてしまっていた。 「どうして…………」 美琴は愕然とした。己の行動が信じられなかった。 「くっくっくっくっく……なるほどな。テメエ、さては今の反射された一撃を受けるつもりで撃ちやがったな?」 一方通行のセリフにギクッとする美琴。 「ヒャーヒャッヒャッヒャッヒャ! 無駄無駄無駄なンだよォ! 『樹形図の設計者』の予測シミュレート一八五手前にテメエが死んて終わらせようってか? 悪ィが、そいつは無理だ!!」 「…………アンタも知ってたのね? けど、実験の根幹は『私がアンタに一八五手で負ける実力』よ! それが覆れば実験は続けられないわ!」 「じゃ、何でテメエは今避けた?」 「――――!!」 「クックックック、『樹形図の設計者』を舐めてねェか? アレがただ単に『一八五手』を導き出すわけねェだろうが」 「どういうことよ?」 「オイオイ、今、身をもって知ったじゃねェか。人に限らず『生き物』ってのはな、『命に関わる危険』が迫ると、己の意思がどうあれ『本能的に回避』しちまうンだぜ。それも計算に入れての『一八五手』なンだよ」 一方通行の衝撃の発言に御坂美琴は頭の中がショックの鐘が鳴り響いた。 背景が自分も含めて協調反転されたような気がした。 「つまりだ。実験を終わらせるにゃ、『俺がレベル6になる』か、『俺が最強でなくなる』か、の二択しかねえってわけなンだが、そこんトコ、楽しく理解してくれてンのかァ?」 「くっ!」 美琴は立ち上がった。 実験を終わらせる方法が自らの死ではなかったことを思い知らされてしまった以上、やることは一つしかない。 万が一の確率でしかないことをやるしかないのだ。 しかも、それが『樹形図の設計者』の思うツボだと解っていながら、だ。 「なら! アンタを『最強の座』から引きずり下ろす!」 レベル5同士の戦いである以上、何かの間違いで美琴が勝ったとしても、それは誤差の範囲内で済まされるかもしれない。 だから『何かの間違い』で『勝利する』ことは許されない。 明らかに『誰の目から見ても』美琴が『勝利した』でなければならない。 そんなことができるのか? 美琴は心の内で悲観的になる。 が、そんなことを言っても始まらない。妹達を救うために、自らの罪を償うために、今まで動いてきたのに諦めることなど許されない。それなら最初から見て見ないふりをすれば良かっただけだ。 「そンじゃま、今度こそ、本当にゲーム開始だ!」 言って、一方通行は地を蹴った! 当然、結果は見えていた。 美琴の繰り出す攻撃は何一つ通じない。 電撃だろうと、砂鉄の嵐だろうと、砂鉄の剣だろうと、空気を電気分解して一方通行の周りにオゾンを創り出そうと、全てが弾き飛ばされ、逆に一方通行の攻撃はすべてが当たる。 しかし、美琴の『本能』がどうしても『死』という最後の一線を越えさせない。 「かはっ!」 美琴は肩を押さえて、座り込み、背を周りに突き刺さった鉄骨に預けていた。 制服の裾はところどころ破れ、露わになっている手足、顔、髪は痣と埃まみれになっていた。 もちろん、一方通行は無傷だ。 「あ~あ。つまンねェなぁ……レベル5同士なンで、もうちっと楽しめるかと思ってたンだが……」 拍子抜けした表情で頭を掻く一方通行。 「こりゃ視力検査と同じだな。アレは二.〇までしか計れねエわけだが、テメエは二.〇でも、俺は一〇.〇くらいありながら『二.〇』って判断されてるってコトなンだろうぜ…………」 やる気が失せた声で呟いてから、一方通行が美琴へと、無造作に手を伸ばす。 しかし、美琴に蓄積されたダメージは小さくない。一方通行のゆっくり伸ばされる手でさえもかわすことが困難なほどに。 「そろそろ、終わりにすっか?」 好事家のような笑いで一方通行は御坂美琴へと手を伸ばす。 その手が美琴に触れれば、美琴は体中の血管が爆発する。 逃げ場はない。 しかし、運命がここで分岐する。 「ンな!?」 一方通行が思わず戸惑った声を漏らした。 己の目に留まることなく、その場にいたはずの美琴が、文字通り掻き消えたからだ。 「どういうことだ!?」 一方通行が辺りを見回す。 そして見つけた。 自分と距離を置いて立っている御坂美琴の姿を。 ただし、その肩を誰かに預けて立っている姿で。 美琴に肩を貸す実験場に現れた新たな乱入者が一方通行に鋭い視線を向けている。 美琴と同じく常盤台の制服に身を包んだツインテールの少女。 白井黒子がそこにいた。 「黒子? アンタ!?」 美琴は思わず声を上げた。 絶体絶命のピンチに颯爽と登場したのが、想像の範疇にすらなかった後輩だったからだ。 対する白井は、一方通行から距離を、言い換えれば間合いを置いて、視線は一方通行から外さない。 「水くさいですわ、お姉さま」 「え?」 「黒子ではお姉さまのお力になれないと、支えになれないと、そう考えておられたのでしょう。確かにこの当時のわたくしではそう思われても仕方がありませんが」 「な、何を言ってるの? 私はただ、私のことで黒子や初春さんや佐天さんに迷惑をかけるわけにはいかないって…………」 「分かっています。お姉さまの優しさは誰よりも、このわたくしが分かっています。しかし、優しさは残酷さと表裏一体であることをご理解くださいませ」 「――――――っ!!」 「ですが、黒子は馬鹿な後輩なのです。お姉さまの苦しんでおられる姿を見せられて、黙ったままでいるとでも思いましたの?」 「う…………」 「妹達、レベル6シフト計画、DNAマップ、一方通行、電撃使いによる施設破壊」 「なっ!?」 「だからこそ、わたくしはここに来たのですわ」 白井はとびっきりの笑顔を見せた。 美琴は驚嘆した。 今、上げた単語を知っているということは、白井は全てを知っていることになるからだ。 それでなお、美琴の味方でいることを宣言したも同然なのだ。 「それに」 言って、白井は今度は片目をつぶった少し呆れた笑顔になって視線を別の方向へと向ける。 「そう言ったお馬鹿さんはわたくしだけではありませんけど」 つられて美琴は視線を白井が見ている方向へと移して、 「あ…………!」 そこに佇んでいた存在に思わず声を漏らしていた。 ここには何でも解決してくれるママはいない。 困った時だけ神頼みしたって奇跡なんて起こるわけがない。 そう思っていた。 一万人以上を見殺しにした自分に救いの手が差し伸べられる資格なんてないと思っていた。 「うあ…………」 思わず声が漏れた。 目頭が熱くなった。 威風堂々佇むその姿に涙を堪えられなかった。 お節介焼きの年上の少年。 自分を一人の少女として見てくれる少年。 レベル5の自分を凌駕する少年。 それに何より、誰よりも自分を助けてくれるかもしれないと、心のどこかで期待していた少年。 泣き叫んでいたら、それを聞いて駆けつけてくれるヒーローなんて居ないと思っていたのに。 上条当麻が妹達を守るように、彼女の前に立って一方通行を睨みつけていた。 「あなた、は……とミサカは愕然とします………」 妹達は突然、自分の目の前に現れた、このツンツン頭の少年に見覚えがった。 今日の夕方、一緒に猫の餌をやって、猫の育て方の本を買ってくれた少年。 そして、第一〇〇三一次実験の現場を目撃されてしまった少年。 どうやって、ここに辿り着いたのだか。 どうやって、この実験のことを知ったのか。 妹達はどう考えても分からなかった。 この少年がここに来ることなどあり得ないはずだったのだ。 夕方の一件だけでここを知ることなどできないはずだったのだ。 茫然と少年を見ていた妹達の傍に、これまたいきなり二人の少女が現れた。 一人は、自分たちの素体。妹達を守るために一方通行に戦いを挑んだ偉大な姉。 もう一人は、妹達は初めて見る顔だった。 ツインテールのあどけない少女だった。 「白井、二人を頼むぜ」 「ええ、任せてくださいませ」 ツンツン頭の少年とツインテールの少女が、どこか不敵な笑顔でそんな会話を交わしていることが不思議でならなかった。 そして、少年が右こぶしを力強く握りしめて、力強く一歩を踏み出す。 妹達はぎょっとした。 妹達の素体、御坂美琴はゾッとした。 なぜなら彼が一歩を踏み出した方向は紛れもなく、一方通行に向かって、だったからだ。 「ちょっとアンタ……まさか…………」 美琴は冷たい汗が頬を伝っていくのを感じた。 「何をする気ですか?、とミサカはあなたに問いかけます」 目を見開き、妹達も美琴と同じことを考えた。 あの少年の表情はどう見ても話し合いをしよう、なんて顔じゃない。 一方通行に戦いを挑む、そんな顔でしかない。 少年はそんな声を背に受けて、しかし力強く歩みを進める。 対して一方通行は足をとめた。 「何だァ? 今日はやけに闖入者が多いじゃねェか。ったく、この実験、ひょっとして外部に駄々漏れなんじゃねェだろうなァ?」 一方通行はどこか面倒臭そうに言った。 上条当麻は一方通行まで五メートルのところで足をとめた。 「で、お前とあのツインテールの女は何な訳?」 本当に世間話をするような軽い口調で問いかける一方通行。 「ここで、お前と相対するってことは意味することは一つだと思うが?」 上条当麻はわざと質問に対して質問で答えた。 それも、誰しもが答えが分かっている質問だった。 「ほォ? それはつまり、この俺が学園都市最強の超能力者と知っていてケンカを売りにきた、って解釈していいわけなンか?」 一方通行の笑みが深くなった。獰猛に深くなった。 「ケンカを売りに来たんじゃねえ。この実験を止めに来たんだ」 上条当麻は一方通行を真っ直ぐ見据えて宣言した。 「は?」 「この実験を止める方法は簡単だ。お前が『最強』じゃなくなった時点で終わりだ」 「え? 何? お前が俺を止めンの? はぁ……テメエがどんな能力者か知らねェけど、俺に勝てるとでも思ってンの? 俺、さっき言ったよな? 俺が学園都市最強のレベル5だって、そこんトコ、ちゃんと理解して喋ってンのか?」 一方通行の笑いは止まらない。 「無茶よ! アンタがどんな能力を持っているかはだいたい分かってるけど、それでもそいつに勝とうなんて無理よ!」 美琴は悲痛の叫びを上げた。 「というか、アンタは何のために戦うつもりでここに来たのよ!? どうして、アンタが一方通行に挑む理由があんのよ!?」 確かに御坂美琴は上条当麻が助けに来てくれることを望んでいた。 本当は望んではいけないのに望んでいた。 しかし、実際に助けに来てくれてしまうと、今度は上条の命の心配をしてしまう。 助けに来てくれた、それだけで美琴はすべてが救われた気がしたのだ。 だから、上条には戦ってほしくない。傷付いてほしくない、という気持ちが爆発する。 いったい、どんな事情があってこの少年がここに来たのかはまったく分からないが、それでも一方通行に挑むということは、傷付くどころか命の心配さえ、しなければならなくなるのだ。 上条は答えた。 「決まってんだろ。この実験はすべて間違っている。そんなもん認めるわけにはいかねえ」 美琴は愕然とした。 この実験は確かに異常だ。そして、この実験のことを知っているということは、この少年は一方通行の『力』も知っているはずなのだ。 しかしだからと言って『認めたくない』だけで、自分の命を賭けられるはずがない。そんな馬鹿がこの世にいるとは思えない。 一体、どんな大義名分で自分の命を賭けているのだ? 美琴のようにDNAマップを提供したならまだ分かる。 罪悪感と責任感で止めようとするならまだ分かる。 もちろん、上条にそんなものはない。 だから、美琴には分からない。 何のために上条当麻が戦おうとしているのかが分からない。 それは妹達も同じだった。 確かに妹達と上条は夕方に出会っている。また、実験現場を目撃されてしまっている。 だが、それだけだ。 それだけでどうして、この場に現れて、一方通行に挑むのかまでは分からない。 妹達は自分の命に価値を見いだせない。 それゆえ、自分のために上条当麻が来た、などとは微塵も考えていない。 「未来のためですわ」 「「は?」」、とミサカは疑問の声を漏らします」 二人の問いに答えてくれたのは白井黒子だった。 その視線は上条と一方通行に向いたままだ。 「上条さんはお姉さまとお姉さまの周りの世界の未来のために戦いに来たのです。もちろん、その世界にはお姉さまの妹さんも含まれますわ」 白井のセリフは奇しくも上条当麻がアステカの魔術師に誓った言葉とほぼ同じだった。 白井黒子は、上条当麻が『御坂美琴とその周りの世界を守る』と言った約束のことなど知らないにも拘らず。 この時はまだ、御坂美琴もまた、上条当麻のその宣誓を知らないにも拘らず。 上条当麻には今の白井黒子の言葉は聞こえなかったにも拘らず。 上条当麻は、意識的にしろ無意識的にしろ、『その誓い』を貫き通すためにここに来たのかもしれない。 「私の……未来……って、そう言えば黒子。あいつもそうだけど、アンタ、何で冬服着てるの? 今はまだ八月よ?」 「…………」 「黒子?」 「…………信じてもらえないかもしれませんが、信じていただけますか?」 「意味分かんない」 「でしたら、お話できませんわ」 「分かった。信じるわよ。少なくとも私を一方通行の毒手から救い出してくれたのはアンタなんだから命の恩人を信じないなんて真似は出来ないわ」 「ありがとうございます」 白井は一礼してから、真っ直ぐ美琴の瞳を見た。 「わたくしと上条さんは今から約四ヶ月後の世界からお姉さまをお助けに参上いたしましたの」 その一言が、きっかけになったわけでもないのだが。 白井がそう言って、美琴と妹達が絶句した瞬間、 上条当麻と一方通行の戦いの火ぶたが切って落とされた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/御坂美琴の消失
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「待った?つってんでしょ無視すんなゴルァア!」 出典:とある魔術の禁書目録 とある科学の超電磁砲 CV:佐藤利奈 学園都市に5人しかいないレベル5の内の1人。第3位。 電撃使い(エレクトロマスター)であり超電磁砲(レールガン)の異名を持つ。 元々はレベル1の低能力者であったが、努力の末学園都市第3位にまで上り詰めた努力家で、 上条さんにまけない程強い正義感の持ち主。 上条さんに対しては強い対抗意識と同時に好意を抱いており、 出会う度に勝負を仕掛けているが能力の性質と上条さんの性格上 結果はいつも変わらず「負けてないけど勝ってもいない」 その様子があまりに微笑ましく、仲睦まじく見えるためか ファンからは冗談交じりに「上条美琴」とたまに呼ばれている。 本作では上条さんとの口論を「夫婦漫才」と揶揄され、 事あるごとに黒子にベタつかれと気苦労は絶えない。 テレスティーナと一方通行(アクセラレータ)を止めるため、一時期は自分一人で行こうとしたが上条の説得によりともに行くことを決意。 チームKCのメンバーとしてパーティに加わることとなったがアクの強いパーティにいるため最近ではナナに変わるツッコミ要員としての地位を確立しつつある。 戦闘はもちろん電撃をメインにした物で、 補助技、回復技は覚えないものの物理攻撃、全体攻撃の両方が使えるため アタッカーとしては優秀。
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/御坂美琴の消失 第2章 「――――申し訳ございませんでした。わたくしとしたことが取り乱してしまいまして」 「あ……」 白井黒子は涙が収まると同時に、やや落ち込んではいたが、それでも平静を取り戻して、上条の胸から離れる。 少女が少年に抱きついた。 にも拘らず、白井の表情には一切の照れも入っていなければ、羞恥も入っていなかった。 それは単純に白井にとって、今、この場にいる上条は異性ではなかった、ただそれだけの話。 「あなたに八つ当たりしてしまったことを心よりお詫び申し上げます。お姉さまを救えなかった、ということではわたくしも同罪ですの」 上条は愕然からくる硬直からはまだ抜け出せていなかった。 「それではごきげんよう。この町で暮らす限り、どこかでお会いするかもしれませんから、さよならは言わないでおきますわ」 すっと佇まいよく、白井は踵を返して静かに立ち去ろうとして、 「お、おい!」 それを、ようやく硬直から脱した上条は呼びとめた。 「何ですの?」 「…………今の話、本当なのか…………?」 上条は神妙に問いかける。この場にひとときの沈黙が訪れて。 振り向きもせず、白井黒子は言葉を紡ぐ。 「…………あなた様がお姉さまにどのような感情を抱いているかは存じ上げませんが、お姉さまのことを少しでも気に留めておいででしたことは、お姉さまにとって喜ばしいことですわ」 「……まあ、アレだけ突っかかって来られりゃ…………」 「事あるごとにあなた様のことを話されていたお姉さまの表情は本当に晴れやかで嬉しそうで、それでいて愛おしいそうでした。当時のわたくしはよく嫉妬を覚えましたの」 「…………いや、俺が聞きたいのは…………」 「上条さんがお姉さまに恋慕の情を抱いていないのであれば、その方があなた様にとって良いことですわ。だって――――」 ここで白井は振り返った。 その顔は寂しげに笑っていて。 しかし、その瞳からは堪え切れない涙がこぼれていて。 「わたくしのように………ならず……に済むのですから…………」 「――――白井!?」 「お姉さまとのことは………遠い思い出に……過去を振り返った時に…………笑って話せる懐かしさを感じるだけで済むのですから…………」 「…………っ!!」 上条当麻の胸の内に罪悪感が波紋のように広がっていく。 「それではごめんあそばせ」 呟き、白井は姿を消した。 空間移動能力。 しばしの間、上条は悔恨に身を震わせながら佇み、 冬の寒風さえも彼の中に生じた熱さを冷やすことはできなかった。 (御坂が殺された!? んなわけねえだろ!! 白井の悪い冗談に決まっている!!) 夜の町を。 彼が居住するアパートへと。 上条は全速力で駆けていた。 ぎりっと歯を軋ませながら。 白井に告げられた事実を否定し続けながら。 (俺が聞いたのは白井の口からだけだ! 御坂と白井が俺をからかってるだけだ!! あいつらならやりかねん!!) 自力で動かせないエレベータの中でも上条は、結構酷い人物評価を下しながら必死に否定し続ける。 ちーん。 学生寮の七階に着き、扉が開くと同時に上条はダッシュをかけた。 向かう先は自室。 目的は自室にいる同居人。 「インデックス!」 ノックをすることも、呼び鈴を鳴らすことも無く、上条は勢いよく扉を開けた。 「と、とうま!? どうしたんだよ!? いきなり怒声を上げて!? もしかして私がとうまの帰りを待たないで冷蔵庫の中を全部食べてしまったことに怒ってるのかな!?」 「んなこた、どうでもいい!! それくらいお前ならやりかねんから怒るだけ無駄だ!!」 「あ! なんかそれはそれで腹立たしいかも! とうまが私をどういう目で見てるかよく分かったんだよ――――って、え!?」 いきなり両肩を力いっぱい掴まれてインデックスは素っ頓狂な声を上げた。 そのまま、怒涛の押しを受けて、部屋の壁に押し付けられて、 「と、とうま……? えっと、私……心の準備が…………」 結構迫力満点に詰め寄る上条に、顔を赤くしてしどろもどろしながら答えるインデックス。 が、上条はインデックスのそんな乙女な心情などどこ吹く風で、 「インデックス…………一つだけ、俺の質問に答えてくれ…………」 「う、うん…………!」 インデックスの首肯を確認してから、上条は一度息を吐く。 意を決して、 「お前…………御坂を知っているか…………?」 もし、白井の言うとおり、御坂美琴が8月21日に殺されたなら、美琴とは9月1日まで面識が無かったインデックスは当然、彼女を知っているわけがない。 インデックスが美琴を知っているか知らないか。 白井の言葉の真偽を確かめるための方法として、これ以上、確実な方法はこの世界には存在しない。 なぜなら、インデックスは完全記憶能力者だからだ。 一度見た顔を忘れるはずがないからだ。 お互い自己紹介していないとしても、その場で上条は御坂という名を呼んでいたから名前を記憶しているはずだからだ。 そして、上条が期待していて、しかも希望している答えは―――― 「みさか、って――――とうま! 短髪と会ってたの!?」 インデックスの答えそのものだった。 その瞬間、上条の焦燥から来ていた緊張感は四散した。 インデックスから見れば、上条はそうとう間の抜けた顔をしていたことだろう。 しかし、インデックスはそんな上条の表情なんぞどうでもよくて、 「とうま……まさかとは思うけど……いつも補習とかで遅いのは嘘で本当は短髪といつも会ってたとか……?」 「ばーか。んなわけねえだろ」 インデックスの険悪な視線をものともせず、一つ安堵のため息を吐いて、上条はインデックスを解放した。 「ホントなのかな?」 「しつこいな。俺だって疲れているときに疲れる奴には会いたかねえよ」 なおも詰め寄るインデックスに、苦笑で返す上条。 「まったく……あの短髪は事あるごとにとうまにちょっかいかけてくるし、私にケンカ売ってくるし……」 インデックスがブツブツ呟いて、しかし、上条はインデックスのその愚痴がどこか心地よかった。 悪い冗談を聞かされた後だったからかもしれない。 普段の美琴を感じさせるインデックスの言葉は、上条に大きな安堵感を与えてくれた。 それは、今、この時に御坂美琴が存在していることを教えてくれるからだ。 (てことは、あのストラップは俺がどこかで失くしたんだな。うわ、やっべー……これが御坂に知られたら俺が御坂に殺されるんじゃね………?) などと思いながらもそれでも上条には笑顔が浮かぶ。 「とうま?」 「ああ、すまんすまん。そういや、お前、冷蔵庫の中身、全部喰っちまったんだよな?」 「う゛……!」 「いいっていいって。遅かった俺が悪いんだ。そうだ。どうせ、お前まだ食えるだろ? 今日は豪勢に、とまではいけないけれど外食しようぜ」 「ほんと!」 「おう」 「ありがとうなんだよ、とうま! じゃ、早速行くんだよ!」 先ほどまでの怒りもどこへやら。 上機嫌でスキップを踏むインデックスの後ろを上条は付いていく。 (ったく、あいつら……悪い冗談にも程があるぞ…………) 一度、常盤台中学の学生寮がある方向へと視線を移して。 さて、上条当麻は一つ、失念していたことがあった。 心臓に悪い話を聞かされて、 それが悪い冗談だと知らされて、 安心してしまったのがまずかったのかもしれない。 たまたま立ち寄ったファミレスが『大食いキャンペーン』を張っていて、『ジャンボスパゲティを三十分間でたらい上げたらタダ』というインデックスに挑戦しているような催しをやっていたものだから、インデックスをけしかけて。 そこで、相当の時間をつぶしたのは真剣にまずかったかもしれない。 もちろん、お店側の挑戦を撥ね退けたインデックスに感心してしまったのも良くなかっただろう。 なぜならば、 「上条ちゃん? 上条ちゃんには先生の気持ちが伝わらないのですかー?」 「いえいえ滅相もございません。ですからこうして、本日も先生の補習を喜んで受けさせていただいております、はい」 翌日の放課後。 上条当麻は、見た目十二歳くらいの担任、月詠小萌の呆れた視線に見下ろされながら、平身低頭、土下座に勤しんでいた。 無理もない。 昨日の分の宿題をまったく手つかずだったことを思い出したのは、本日、登校途中に月詠小萌の車を見た時だった。 そう、上条当麻は、己の救いようのない成績と出席日数の穴埋めのための宿題を忘れてしまっていたのだ。 「はぁ……上条ちゃん? 上条ちゃんを留年させたくない先生の気持ちを分かってほしいのですー」 「はい。もちろんです。海より深く山より大きく反省しております」 「まあ、遊び盛りの上条ちゃんに毎日鬼のように宿題を課していた先生にも非はありますから今回は大目に見ますけど、二度目はありませんからね?」 「ははあ! 勿体ないお言葉でございます!」 「うん、よろしい。では今日の補習を始めましょー」 「はーい………」 月詠小萌と上条当麻。 今日もまた、二人だけの授業が始まる。 もちろん、何も起こるわけがなく、いや小萌は何度か怒るかもしれないが。 「あー何だ。今日で三日連続、というかその前くらいから毎日同じことやってるよな俺…………」 今日も今日とて残業帰りのサラリーマンのようにふらふらしながら重い足取りで、どっぷり日が暮れた後に帰宅の途に付いている。 やっぱり、あの自販機がある公園を使って学生寮までの道のりをショートカットする上条当麻は珍しく、本当に珍しく、今、この場に御坂美琴か白井黒子が現れることを、ある意味、期待していた。 いつもなら、スル―スキルを如何なく発揮させて美琴を激怒させている上条は周囲に気を配ってまで二人に会えることを、最低でもどちらか一人には会えることを望んでいた。 何と言っても、昨日の白井の冗談はあまりにタチが悪すぎた。しかも迫真の演技過ぎた。 おかげで今日の小萌の説教に繋がったと言っても過言ではない。 一言、文句を言ってやらないと気が済まない。 例え、昨日が四月一日だったとしても許すわけにはいかない。 そんなわけで、上条は二人を待つことにした。 もちろん、それは上条の逆恨みでしかないのだが、そんなところまで上条の頭は回らない。 というわけで、自販機に目を移し、 「ちっ……あいつら……こっちが会いたくないときはホイホイ出てくるくせに、今日みたいに待っているときに限って出て来ないのかよ…………」 しっかりと硬貨を入れて、カレースープをすすりつつ、寒空の下で、自販機の前で一時間ほど待ってみたが二人が現れる気配はなかった。 昨日以上に遅くなったがために、部屋に戻っていきなりインデックスに噛みつかれたのは。 さすがに今回ばかりは不幸ではなく自業自得としか言いようが無かった。 「おー感心です。上条ちゃん。今日はちゃんと宿題をやってきたのですねー」 「へっへっへっへ。俺だってやる時はやるんです。ですから今日は…………」 「はい。今日も張り切って補習と行きましょー」 「やっぱりですか…………」 上機嫌な笑顔の小萌に、上条は首をかくんとさせた。 無理もない。 何と言っても昨日出された分は二日分で、やっぱり鬼のような量だったのだ。 いったい「先生にも非がある」と言ったのは何だったのだろう。 とは言え、二日連続でやらない訳に行くわけもなく、上条はほぼ徹夜で仕上げたのだ。 如何に十代、体力が有り余っている高校生でも徹夜は辛いものだ。それが遊びに費やしたならともかく、勉強に費やしたとなればその疲れは倍増する。 「おや? 上条ちゃん、この宿題、ぱらぱら見てみましたけど、ほとんど合ってますよ? 本当に頑張ったんですねー」 「へ?」 「うんうん。上条ちゃんもやればできるじゃないですかー。これで能力開発の方も上向いてくればいいのですが、それはさておきまして、あの最底辺の正解率をここまで上げられるなんて大したものですよー」 「そ、そうですか? ああ、それはきっと先生の教え方が良かったからですよ。マジで感謝します」 「えへへ。ありがとうです上条ちゃん。でも、本人が努力した結果は本人のものなのですよー。先生は生徒のお手伝いをしているだけですから」 今日の小萌はすこぶる機嫌が良さそうだ。もしかしたらご褒美に今日の補習を、口先三寸によっては回避してもらえるのではないかというくらい。 「そうですねー一度、上条ちゃんにはお話したことありましたけど、努力の成果を最高の結果で示してくれたのは常盤台中学の超電磁砲の御坂美琴さんです。何と言っても彼女はレベル1からレベル5に躍進した学生の鏡と言ってもいい存在でしたからねー。上条ちゃんも御坂さんのように、いいえ、むしろ御坂さん以上に向上してくれることを先生は期待してますよー」 (って、ここでも御坂の名前かよ……) 上条はちょっと苦笑を浮かべた。本当にあの女子中学生は有名で学園都市でも模範となる存在なんだと知らされる。 自分と接しているときのあの姿からはまったく想像できないが。 「そうですね。俺もレベル5とは言いませんけど他の成績は引き上げたいです」 「よろしい。というわけで、今日も張り切って補習と行きましょー」 「って、えええええええええええ!?」 「どうしたんです? そんな素っ頓狂な声をあげて」 「いや……その……」 「言ったじゃないですか。先生は上条ちゃんに御坂さんのようになってほしい、と。そして、上条ちゃんも了承してくれたじゃないですかー。でも、そのためにはまずこの補習を全部片付けてからでないと、スタート地点にすら立てませんよー」 ふふん、と鼻を鳴らして、指を立ててまで恍惚に語る小萌の理論展開に上条は完全に敗北した。 今日もまた、二人だけの補習が始まる。 「とうま!」 「あれ? インデックス、お前どうしてここに?」 補習を終え、校門をくぐったところで、上条は意外な出迎えに目をぱちくりさせた。 「決まってるんだよ。毎日毎日毎日毎日遅く帰ってくるし、一昨日は短髪の名前を出したし、昨日はいつも以上に遅かったし、本当に補習なのかどうか確かめに来たんだよ」 両手を腰に当てて薄い胸をふんぞり返らせるインデックスはちょっと怒っていた。 「はぁ……どうせ迎えに来てくれるなら、他校の女子生徒がもじもじしながら『か、上条君、一緒に帰ろ……』と言って恥ずかしそうに近寄ってきてくれるシチュの方がベストですな」 「何か言った?」 「いや何も」 話を打ち切って、上条とインデックスは肩を並べて歩き出す。 しばらく歩くとやっぱり、あの自販機のある公園に入っていた。 「とうま、いつもここから帰ってるの?」 「おう。学生寮までなら表通りに出るよりこっちの方が近いからな」 「そうなの? ふーん。じゃ、今度から私もとうまを迎えに行くときはここを通るんだよ」 「ついでに、この先に自販機があるんでちょうどいい」 「自販機! ということはとうま! 今日は私にも奢ってくれるんだね!?」 「分かった分かった」 そんな馬鹿話に花を咲かせながら二人は自販機へと向かう。 「あ……!」 声を漏らしたのはどちらだったのか。 今日は自販機の前に先客がいた。 既に夜に包まれているのに、上条とインデックス以外にこの場にいる者がいた。 どうやら目の前の相手は何を買うか迷っているらしい。 後ろ姿からでも分かる。 『彼女』は腕組みして首を傾げていたからだ。 亜麻色で肩までの長さの髪。 学園都市では知らない者がいないと言われるベージュのブレザーにチェックが入ったほとんど太ももの付け根までしかない短いプリッツスカート。 冬なのにコートを着ていない、というのはおそらく『彼女』は自身の能力を駆使して、防寒対策が万全だからなのだろう。 その証拠に、バチバチと身体の周りに火花を散らせている。 どちらとも言えないが、漏らした声が『彼女』の耳にも届いたらしい。 少女はゆっくりと振り返った。 その姿は、上条当麻とインデックスの二人が想像していた通りの容姿だった。 学園都市二三〇万人の頂点、七人――――いや、一昨日、新たに一人誕生したようだから八人しかいない超能力者【レベル5】の第三位。 御坂美琴がそこにいた。 「むーっ!!」 インデックスが憤慨して、御坂美琴へとずかずか歩み寄る。 「短髪! とうまに何の用! 私の承諾なしにとうまと会おうなんて絶対許さないかも!!」 ビシッと指を突き付けて、美琴にひとつ文句を付けてから、再びインデックスは肩越しに上条を睨みつけ、 「とうま! やっぱり短髪と会っていたんだね!! 私を待ちぼうけさせておいてこれは許せない……か、も……?」 が、視線の先にいた上条当麻の様子にインデックスの怒りは収まっていき、それはそのまま戸惑いへと変わった。 対する上条は言葉を失っていた。 目の前にいる存在に愕然としたのだ。 姿形は紛うことのない御坂美琴。 しかし、上条には分かる。分かってしまう。 本人と決定的に違う証拠を突き付けられて。 今、目の前にいるのは『御坂美琴本人ではない』ことが分かってしまう。 ヘアカラーと同じ瞳の色が違う。輝きが違う。 「ここ三日ほど、あなたの姿をここで見かけているという情報をキャッチしていました。よって、それを確かめに馳せ参じた次第です、とミサカは運命の出会いに心をときめかせます。ぽっ」 そこにいたのは、学園都市が創り上げた御坂美琴のクローン、 上条からは『御坂妹』と呼ばれる妹達の一人であった。 「口で言うなんてあざといんだよ!」 そんな御坂妹のセリフを聞いて、再びインデックスに怒りの炎が再点火する。 「おや、あなたもいたのですか? 小さくて気が付きませんでした、とミサカはあなたではなく上条さんを見つめながら素直な心情を吐露します」 「また馬鹿にして~~~~~~~~!! 身長は確かに負けてるけど胸の大きさはそんなに変わらないくせに!!」 「むっ……その一言は聞き捨てなりません、とミサカはあなたを睨みつけます。ぷっ、見栄を張るのはどうかと思いますよ、とミサカはあなたの胸部辺りを指差して吹き出します」 「お、おい……インデックス………」 上条は恐る恐るインデックスに問いかけた。 しかしそれは、愛想笑いを浮かべて宥めるものではなく、明らかに顔面蒼白になって。 愕然に体を震わせて。 そして、上条当麻は自分が一昨日、インデックスにした質問の仕方を間違えていたことに気が付いた。 御坂妹は一人称を『ミサカ』と言っている。 ならば「御坂を知っているか?」という質問では、インデックスには「ミサカを知っているか?」に聞こえるのだ。 「……お前の知っている『みさか』って、そっちの『みさか』なのか…………?」 「はぁ? 何言ってるんだよとうま! みさかって言えば、この変な喋り方する短髪に決まってるかも!」 「はぁ……あなただけにはミサカの喋り方について変呼ばわりされるのは心外です、とミサカは思いっきり嘆息します」 「むがあああああ!! また馬鹿にしてえええええええええええ!!」 もっとも、だからと言って、今の上条の恐怖に等しい焦燥はインデックスの鬼のような形相を持ってしても晴れはしない。 「い、インデックス……一昨日と同じ質問だけど、もう少し詳しく聞いていいか………?」 「何!?」 ほとんど恫喝に促すインデックス。 しかし、そんなインデックスでも上条は、『インデックス』には恐怖を感じない。 むしろ、今からする質問の方に恐怖を感じてしまっている。 比べ物にならないほどの寒気に支配された恐怖を。 聞くべきか聞かぬべきか。 いや、だからと言って聞かない訳にはいかない。 賽を投げたのは上条当麻の方だ。 今、取りやめたとしても、インデックスが間髪いれず追及してくるのは目に見えている。 上条は意を決して、 「…………『御坂美琴』って女を知っているか…………?」 対するインデックスの答えは即答だった。 「誰なんだよ!? ひょっとして、とうま、私の知らないところでまた別の女の人とお知り合いになっていたのかな!?」 別の意味でインデックスが追求してきそうな勢いだったが、上条はインデックスの『誰なんだよ』以降の言葉は耳に入っていなかった。 一度でも見聞きしたものは、決して忘れることができない完全記憶能力を持つインデックスが。 上条の周りにいる女子の中でも美琴に対しては、ひときわ対抗心を抱いているインデックスが。 白井黒子が上条と出会ったと言った九月一日に(上条の記憶では)一緒にいたインデックスが。 九月三十日に風斬氷華を助けるために美琴の助けを必要とし、相談したはずのインデックスが。 御坂美琴を知らない、と言ったのだ。 御坂美琴を知らない、と言ってしまったのだ。 そのフレーズが意味することはたった一つ。 今、この世界から。 御坂美琴という存在は消えてしまっている、ということに他ならなかった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/御坂美琴の消失
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前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/only my 美琴 翌日、いつもの帰り道にて――― いつものように遭遇した美琴と上条、だが美琴は穏やかではない。 「み、美琴さん? いつまで怒っていらっしゃるんですか…?」 「怒ってないわよ!」 あの後美琴(当然冷静ではないのだが)にしっかりと事情を説明し"許してもらった"上条だったが やはりご機嫌はナナメ。 「お、お飲み物飲みませんか~?」 「喉かわいてない」 「そうだ! 何か食べましょう、お会計は上条さんに任せてください!」 「お腹減ってない」 「(不幸だ…。ん?そういえば…カエルのグッズへの食付きは物凄いものだった気が…) やっぱり、キャラクターショップ行きましょう!」 「……い、行かないわよ!」 「(こ、これは良い反応!)昨日のカエルグッズが気になってるんだよな~ やっぱり何かしら縁がないとあんなに一杯巡り会ったりしないと思うんですよ」 「ど、どうしてもって言うなら行ってあげない事もないわよ」 「無理して来なくてもいいんですよ?」 「行く…」 「――そうと決まれば」 キャラクターショップの一角にて――― 「(美琴どこ行った…?ってあんなところで立ち止まって何を…っ!?」 美琴は上段に飾られている「ゲコ太とケロヨンの抱き枕」を眺めていた―絵柄は表にゲコ太.裏にケロヨン― 本日発売の数量限定品という事で、実はこのショップの常連である美琴も今日初めて見る代物。 上条もその美琴の輝いた目、横顔を確認すると同時に、自分のサイフの中身も確認した。 「付き合って初めてのプレゼントはコレにするか~。すいませーん!これ下さい!」 「ち、ちょっと何勝手に買おうとしてるのよ!」 「非常に欲しそうな目で見つめておりましたので…もしかして違いましたか?」 「……バカ」 そこに店員が駆けつけ 「この商品ですね、了解しました。そして――当店では現在キャンペーンを行っておりまして…」 詳細が書かれた紙を上条へ差し出す プレゼント目的のお客様限定で差出人のお名前.似顔絵をプリントもしくは刺繍するサービスを行っております 「美琴どうする…? 似顔絵とかプリントしちゃうと白井にバレちまうんじゃねぇか?」 「バレたって構わないわよ、その時は何とかするわ。 あ、似顔絵でお願いします」 「分かりました、では…彼氏さんのお写真を取らせて頂きます。完成までお時間1時間ほど頂きますが、よろしいでしょうか?」 「(か、彼氏さん、そう見えるんだ…)だ、大丈夫です!」 「じゃ、適当にブラブラしてようぜ…って美琴どうしたんだ?」 「あ…うん…何でもない」 「(今さっきまでご機嫌ナナメだと思ってたらこれだからなぁ…やっぱりわからねぇ)」 店を出て、散歩を始める二人 「さ、さっきの店員さんさ…と、当麻の事を見て「彼氏さん」って言ってたわよね…?」 「そういえば言ってたな…って事実じゃないのか? もしかして…数十秒で破局しちゃってました…?」 「ううん! 嬉しかったのよ…当麻と私の事は周りにも認めてもらいたい。特に黒子には…」 「認めてもらう、大変そうだなぁ…。 じゃ、どうせならカップルらしく手でも――― ……って何故、腕に抱きついておられるんですか姫…」 「こっちの方が見てる人に分かりやすいんじゃないかなって思ったのよ、もしかして嫌…?」 「め、滅相もございません! 是非抱きついていてください! (なんか当たってますし…頑張れ理性!働け理性!)」 「抱きついていてください…?って 当麻のえっち…」 「(何かに目覚めちゃいそうだ…)か、上条さんには安心と実績、信頼の理性というものがありますのでご安心を…」 「それが壊れちゃったらどうなるのかしら? ふふっ♪」 「(な、何を狙っているんだこの娘は!)すぅ~~~~~はぁ~~~~」 「いきなり深呼吸なんてしちゃってどうしたのよ?」 「い、いえ…別に何でもありませんよ、そ、そうだ!今度こそ一息付きましょう」 終始押されっ放しの上条当麻である…幸せを感じるより我慢をしている。という状況。 「(ついさっきまでは不機嫌、そして機嫌が良くなったと思ったら…これだからなぁ これを含めて美琴を理解して、もっと好きになれるように努力しないと…な)」 「そろそろ一時間立つんじゃないか…?」 「そうね、じゃ早速受け取りに行きましょ♪」 「おう!」 キャラクターショップ――― 「お待ちしておりました、仕上がりはこのような感じになりましたがいかがでしょうか?」 そこには可愛らしい上条当麻?の刺繍が施されていた、その刺繍を見て…。 「少し可愛すぎるわね…」 と言って上条の顔をジーッっと見つめる。 「でも頭とかはソックリじゃない!」 特徴でもあるツンツン頭は完璧に表現されていた。 「よろしいでしょうか?」 「……、うん、大丈夫」 美琴は噛み締めるように返事をする 「ど、どうした?」 「初めてのプレゼント…大事にするから」 「よろしく頼んだぜ、美琴」 長袋に入れられた抱き枕を受け取り店を出る 「…でもこれじゃ、腕に抱きつくのは無理かもしれないわね」 「俺が片腕で挟んじゃえば何とか」 「そんなに抱きついて欲しいのぉ~?」 「そ、そ、そういうわけじゃないです!」 「顔赤くして否定してもバレバレ…」 「えっ!顔赤くなってた!?」 「嘘よ嘘♪ って本当に赤くなって来てるじゃない!」 「赤面してるという嘘をつかれ騙された自分に赤面してるんですよ…」 「なんだかややこしいわね…」 「んでこの後どうする? その荷物持ってどっかへ行くのはキツイだろ」 「じゃ、今日のところは帰ろうかしら、送ってってくれる…?」 「(だからその目で見ないでください!)も、もちろんですとも!」 「じゃこれ持って――」 上条は渡された長袋を左腕で挟む 「これでフリーだから良いわよね♪」 「……、ハイ」 美琴が再び腕に抱きつく…という事は上条にとって我慢の始まりでもある 「(良い表情をしてくれてる…本当に良かった…)」 美琴の表情を確認して安心した上条、二人はゆっくりと常盤台の寮へ向かい歩いて行った―――続く ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「お帰…その荷物どうしたんですの!?」 「ちょっとね♪」 袋から抱き枕を取り出す 「お姉さまったらまたそのようなものを…黒子ならいつでもどこでも抱かれて挟まれて…っう゛!!」 「黒子、これはとてもとても大事な物なの、もし何かしたりしたら…分かってるわよね?」 「(こうなったら夜中抱き枕と入れ替わって差し上げますわ…ククク…)」 夜中――― 「この時を待っておりましたの…ヒヒヒ…」 「と、当麻ぁ…」 「ん゛!! 今なにか聞こえた気が…まあいいですの ありのままの黒子を抱いて頂きたいので…っ!?」 「……、随分愉快な事をしようとしてたのね、黒子」 「お゛お゛姉さま…」 「これは焦げたらマズイから、ベッドの下に入れておきましょうか…」 (黒子がどうなったか?そしてその場に寮監が駆けつけどういう事になったかはご想像にお任せします) オマケ番外の番外、美琴、束の間の夢――― 「当麻、スキスキだーいすき」 「俺も美琴の事好きだぜ!」 「じゃ~キスしよっ♪」 「こんなところでするのかぁ?」 「ダメ…なの?」 「しちゃいますか…!」 「うん♪ と、当麻ぁ…」 「えへ…エヘヘヘ…ハァ!黒子…?」 「――ありのままの黒子を抱いて頂きたいので…っ!?」 以下略 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ とある路地――― 「おい!あんちゃん…分かってんだろうな…?」 上条は不良ニ人に絡まれていた、やっぱり不幸な事に変わりはないようだ。 「オメェらみたいな卑怯な奴らがいっからダメなんだよなぁ~」 「あ? ゴチャゴチャ言ってんじゃねぇ!」 「物分りがわりぃみたいだから、さっさとやっちまおうぜ!」 「良いぜ、二人くらいなら相手になってやる」 「ジャッジメントですの! って貴方でしたの?通報を受け近くに居たので駆けつけましたが…」 「珍しい事もあるもんだな…」 「どういう事でしょう?」 「いや、こっちの話しだ。じゃ、俺は失礼するぜ」 「おい!テメェ逃げんのか! とりあえずジャッジメントは小娘だやっちまおうぜ!」 数秒のうちに決着は付いた 「お待ちくださいまし!」 「ん?なんだ」 「単刀直入に―――お姉さまとはどういうご関係で?」 「……、美琴から聞いたのか…?」 「いえ、お姉さまの態度が明らかにおかしい事と、持ち物ですわ…あの抱き枕は貴方がプレゼントしたものでしょう?」 「ああ、そうだよ。で、要件ってのはそれだけなのか?」 「ええ、今日の所は貴方とお姉さまの関係だけを聞いて引くつもりですの」 「―――俺は本気だ」 そう言い残し上条は去って行った 「(……少し様子を見る必要がありそうですの)」 常盤台女子寮――― 「今日はお姉さまが想いを寄せる殿方にお会いしましたの」 「は!? ちょっとそれどういう事よ」 「ちょっと二人組の不良に絡まれてたみたいなのでお助けしました、もちろんジャッジメントとして」 「と…ア、アイツに怪我は無かったの!」 「ええ、ありませんでしたよ」 「(ふぅ…良かった)それならいいの」 「そして帰り際、お姉さまの事についてお伺いしました…わたくし一個人として」 美琴は沈黙、その様子を見た黒子が再び口を開く 「本気だ…と仰っていましたよ」 「……、それを聞いて黒子はどう思った?」 「もちろんあの殿方は許しません…ですが」 「ですか?」 「お姉さまの気持ち次第では見守ろうという考えも黒子の中にはありますの」 「―――私も本気よ」 「……、その返事出来れば聞きたくありませんでした」 「ごめんね黒子…私は先に寝るわ、おやすみ」 黒子には「ごめんね」の意味が分からなかった その後も眠りにつけず、夜は更け…そして明けて行く 白井黒子、ジャッジメントの仕事中――― 平穏という事もあるのだけど、ジャッジメントの仕事ついでに上条当麻を探している白井黒子。 花飾りの少女に家の住所を調べさせたものの何故か工事中と分からない事ばかり…。 「こうなったら直接お姉さまに…」 あの自販機前に御坂美琴と上条当麻が居た そしてそこには自販機にお金を入れる美琴の姿があった。 「ここでしたのお姉さま」 「黒子じゃない、何か事件でもあったの?」 「まあ…黒子にとっては大事件、ちょっとそこの貴方も一緒に寮まで来て頂けませんか?」 「え? まあ、別に構わないぜ」 二人の腕を掴んでテレポートの体制に移るがやはり失敗 「(やっぱりダメですのね…。仕方ありません、先にお姉さまを…)では、寮でお待ちしてます…」 「ちょっと黒子!?」 「さあ、歩くか…」 黒子と美琴はテレポートを使い一足早く寮に着くだろう それでも上条は特に急いだ様子もなく足を進める――― 「どういうことなの? いきなり寮に連れてくるなんて…」 「申し訳ございません、ただとても大事な事ですの―――」 と言って呼吸を整え… 「昨日、あの殿方とお姉さまの言った事が本当なら黒子は素直に諦めますわ…」 「それってどういう事…?」 「本気を証明して頂きますの、言葉と行動で…諦めさせてください、お姉さまの事を―――」 「―――中途半端なままじゃ辛いんですのよ…」 そう言って黒子は言葉を遮るように背を向ける 「(どうしたら良いんだろう…もし諦めさせる事が出来たとしても、黒子とはこれからも一緒…)」 それから暫しの沈黙…。 (インターホン♪) 「お~い、着いたぞ」 「どうぞ、部屋の場所はご存知ですわよね」 (ガチャン) 「では、私のベッドに座ってくださいまし」 「お、おう…」 美琴のベッドに黒子と美琴 黒子のベッドに上条 「お楽しみをお邪魔してしまっていたようなので、手っ取り早く終わらせましょう―――」 「―――まずは言葉で証明してくださる?」 「美琴?これってどういう?」 「だ、だから…その…」 「焦れったいですわね、お二方には愛の言葉をここで言ってもらいますわ」 美琴は顔を赤くし、上条はポカーン 「美琴、ちょっとこい…」 「黒子ちょっと待ってて」 「(白井は何を考えてるんだ…?」 「(言葉と行動で黒子を諦めさせて欲しいですのぉ~だって…」 「(言葉はまだいいかもしれない、行動が不安なんだけど…」 「(き、き、き、キスとかくらいならだ、だ、だ、大丈夫よ」 「(全然平気そうじゃないんですが。と、とりあえずここは乗り切ろう」 最大の難易度?を誇る第一関門が目の前に迫っていた――― 「出来るだけ早くお願いしたいですの―――と言いたい所でしたが お姉様の様子を見る限りどうやら本気なんでしょうね…」 美琴は頬を赤くし、小さくなってしまっている…。 「常盤台のエースも貴方の前では恋する乙女ですわ――誇りなさい」 「って事は…認めて下さった?」 「勘違いしないで欲しいですの、貴方を認めた訳ではありません―― ただ、お姉様の恋にも干渉するつもりはございません…それだけの事ですのよ」 「ごめんな白井…」 黒子の頭に昨晩、美琴に言われた事が頭にパッと浮かんだ―ごめんね黒子― 「では、わたくしはジャッジメントの仕事を片付けないといけないので失礼します…」 部屋の出口へ向かい振り返る瞬間、白井黒子の目に光る物が上条の目には映った―― 「――俺ってば物凄い想いを抱えてるんだな」 「い、いきなりどうしたのよ」 「美琴は今幸せか…?」 「幸せに決まってるじゃない、とぉ~っても幸せ♪」 「じゃ、その幸せな美琴さんにプレゼント!」 上条はポケットから小さな紙袋を取り出す…。 「…? なによこれ」 「開ければ分かりますとも」 美琴が若干シワくちゃになった紙袋の中から取り出した それはペアのブレスレットだった、ハートの飾りが上条らしくない。 そして中心部分には二人のイニシャルが刻印されていた。 「柄にもない物なんか買っちゃって…」 「……どうですか、美琴さん?」 「嬉しいに決まってるじゃない!」 「いつもの元気が戻ったようで上条さんは嬉しいですよ」 美琴には上条のイニシャルが刻まれたブレスレット 上条は美琴のイニシャルが刻まれたブレスレットを――― 「こうしておけば、少し離れてても繋がってるように感じられるんじゃないかってな」 美琴は上条の行動を見て、呆気に取られていた 「(私何にもしてないじゃない…)」 美琴は考えた、少しでもお返しを…そして思い付いたのは…。 「次の週末…デ、デ、デートしよ!」 「もちろん良いぜ、で?どこいきましょ」 美琴は自分のベッドの下から、2枚チケットを取り出す 「ここ…」 「え~っと、新しくオープンした温水プールじゃねぇかこれ!」 「何もしないなんて私らしくないじゃない…だから」 「よーし!分かった、一肌脱ごう!」 美琴には気に掛かる事があった、一番は水着である。 こういうのは一人で選ぶべきなのか、それとも一緒に買いに行った方が良いのか分からなかった。 「そういや、俺まともな水着ねぇや…美琴、買いに行くの付き合ってくれるか?」 「もちろん付き合うわよ!(これで何とかなりそうね…)」 「じゃ、明日行くか。週末ったってすぐ来ちまうんだから行動は早い方が良いよな」 二人はこの後も寮の一室ではあるが、話を弾ませていた――― ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 番外編、黒子視点――― (お姉様ったら、あんな反応を示されて…) 「出来るだけ早くお願いしたいですの―――と言いたい所でしたが お姉様の様子を見る限りどうやら本気なんでしょうね…」 (認めたくはありませんが、あの様子ですと…) 「常盤台のエースも貴方の前では恋する乙女ですわ――誇りなさい」 「って事は…認めて下さった?」 「勘違いしないで欲しいですの、貴方を認めた訳ではありません―― ただ、お姉様の恋にも干渉するつもりはございません…それだけの事ですのよ」 (この殿方にお姉様をお任せすると黒子は決めましたわ、お姉様が幸せなら黒子も幸せになれるハズ…ですわよね) 「ごめんな白井…」 (……昨日お姉様にも言われた言葉。そういう事でしたのね、よろしく頼みましたよ。お姉様の事) 「では、わたくしはジャッジメントの仕事を片付けないといけないので失礼します…」 (不安はありますけど、これで良いんでしょう…) 黒子は最後まで自分の気持ちを殺して、その場を去って行った 上条が見た光る物も気のせいではなく、無意識に零れた黒子の涙だった。 番外編、その夜――― 就寝前二人は話していた 「お姉様、黒子は不安でたまりませんの…」 「何が~?」 「これから先ですわ、お姉様が遠くへ行ってしまうような気がして…」 「黒子の事は好きよ。これからもずっと一緒なんだから」 「……心が少し軽くなった気がしますわ、ありがとうございます。お姉様…」 「こちらこそありがと、黒子。じゃ私は寝るわ、おやすみ」 「お姉様、良い夢を…」 その後黒子が就寝したのを確認して、美琴が黒子のベッドへ―― 美琴は黒子をギュッと抱きしめて、眠りに付いた――翌朝それを確認した黒子はいつもの黒子に戻っていた。 前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/only my 美琴
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox もどかしい世界の上で Ordinary_world. 学舎の園の中ではそれ以外に所属する生徒の姿が目立つように、平凡を絵に描いたような上条の高校の校門前では常盤台中学の制服は実に人目を引く。 三々五々に帰宅する学生達は一様に、校門の前で両腕を組んで右足の爪先で地面をトントンと叩いてイライラしながら立っている美琴をチラチラと眺めつつ足早に行き過ぎる。勇気を出してナンパを挑む男子学生は雷撃の槍で追い払い、美琴はポケットから携帯電話を取り出すと、受信メールフォルダの中身をもう一度確認する。 今日の上条の言い訳は『完全下校時刻まで居残り』だ。それが本当ならここで待っていればいずれ上条は出てくるが (わったっしっはー、待ち伏せも持久戦も得意じゃないっつーの!) そろそろ我慢の限界だった。 とてもじゃないが完全下校時刻まで待っていられない。教師達に見つからないよう壁を登って校内に侵入してやろうかしらと美琴が危険な考えに至ったところで、校舎の方からツンツン頭の学生がややお疲れの様子でトボトボと歩いてきた。 「ちょっとアンタ待ちな―――――――――――――――ッ?」 上条を呼び止めるべく叫びかけて、美琴はとっさに校門の影に身を潜めた。上条の左隣に、見慣れない人物が一人。彼女は肩を超えて伸ばされた髪、美しく整えられた眉とおでこ、膝丈より上で揺れるセーラー服のスカート。そして美琴では太刀打ちできないサイズに素直に負けを認めて舌打ち。 (またか……またか、またかアンタはコンチクショーッ! 彼女ほったらかしで鼻の下伸ばして他の女とにこやかに何話しちゃってるわけ? これは一体どういうことなのよーっ!!) 薄っぺらな学生鞄と拳を振り回し今すぐ上条の首根っこを掴みたいのをぐぐぐと堪え、美琴は校門の影にしゃがみ込んで二人をやり過ごす。美琴のそばを二人が通り過ぎた時に会話の内容に耳を傾ければ上条が鼻を伸ばしていたわけでもにこやかに会話していたわけでもないのはすぐに分かるのだが、今の美琴の耳には入らない。 二人の腰の高さくらいまでしゃがみ込んでいだ美琴には気づかず、上条とおでこな少女は何事かを話しながら通り過ぎて行った。 距離は五メートル。風向きは北北西。もうすぐ完全に太陽が西に沈む時刻。 美琴は立ち上がると薄っぺらな学生鞄を肩に担ぎ、二人の追跡を開始した。 美琴の追跡劇はあっという間に終わった。 とある高校から一キロも離れないうちに、上条の左隣を占める少女がポケットから何かプラスチックボトルのようなものを取り出し、上条の左腕を取ると親指でキャップを弾いてからボトルの中に入っていた錠剤のようなものをザラザラザラーッと上条の掌に山盛りに注ぎ、最後に上条に頭突きをお見舞いして足早に立ち去ったのだ。 少女の頭突き一発で倒された上条は、仰向けにひっくり返りながらも掌の中の錠剤を一つもこぼさない。なかなかどうして律儀な奴だ。 上条はうう、と頭を振って立ち上がり、次に周囲をキョロキョロと見回して自動販売機を見つけると、ポケットの中から小銭を探り出して小さなペットボトルのミネラルウォーターを購入する。上条は掌の中の錠剤を全部まとめて口の中に放り込むとゴキュゴキュと音を立て、一気にミネラルウォーターと共に飲み干した。 上条の掌の中にあったのは、たぶん何かのサプリメントだろう。でもサプリメントはそうやって摂るもんじゃないわよとツッコミそうになって、美琴は慌てて自分の口を塞ぐ。 ペットボトルをゴミ箱に捨てた上条は、肩に学生鞄を担ぎトボトボと歩き出す。その後を美琴が五メートルの距離を開けて尾行する。上条は何かの目的があるのか、ややうつむき気味のままでも足取りはしっかりしていた。 (アイツ、どこに行くつもりなんだろう?) 美琴は上条を呼び止める事も忘れ、五メートルの距離を置いたまま上条の後ろを歩く。雑踏に紛れる二つの足音は等間隔で歩き続け、上条は急に足を止めた。 ビルだ。 最近外壁を塗装し直したらしく、建物の古さに似合わず壁が不自然に白いビルだった。四階にはピザ専門店が入っている、いわゆる複合飲食店舗だ。上条はそのビルを一度だけ見上げ、また歩き始めた。 (???) 上条の行動の意味が分からない。次は地下街にある携帯電話のサービス店の店頭で足を止めた。店頭に展示された携帯電話ではなく、店の中をじっと見つめ、それから上条は歩き出す。美琴がそれを追い駆ける。 コンサートホール。 大通り。 非合法地下カジノの入った雑居ビル。 第二二学区の第七階層。 川をまたぐ鉄橋――――――――そして学園都市外れの工業地帯にある操車場。 順番はバラバラだった。道順はでたらめだった。行き先にはいくつかの抜けもあった。そしてそれらには共通項が存在した。 今日上条が赴いた場所は全て、ケンカ友達だった頃の美琴と上条が二人一緒に立っていた場所だった。 後ろから美琴が付いてきている事も知らず、上条は鞄を担いだまま歩き、最後に路上にぽつんと立つ一機の自動販売機と向かい合う。美琴が叩き込んだいくつもの蹴りの跡を労るように、上条は自動販売機の側面を右手でそっと撫でると、今度こそ自分が暮らす学生寮に向かって歩き出した。 上条当麻は防犯の役に立っているか分からない寮の入り口をくぐり抜け、上の階に止まっているエレベーターが一階に下りてくるのを待っていた。 キンコーン、と言うチャチな電子音が響き、落書きをシンナーでこすって消したように薄汚れたドアが自動で開く。上条はエレベーターに乗り込むと中で回れ右して七階のボタンを押そうと指を伸ばしかけ、御坂美琴はその後ろから全速力で走って閉まりかけたエレベーターのドアを手で押さえると、飛び込むように乗り込んだ。 「久しぶり」 「……御坂か。久しぶりだな」 上条は美琴から目を逸らしたまま七と書かれたボタンを押し、閉ボタンに指をかける。エレベーターのドアは鈍い音を立てて閉まり、無言の二人を乗せて七階へと向かう。もう一度キンコーン、という電子音が鳴るとドアは開き、二人はエレベーターの外へ放り出された。エレベーターホールから上条の部屋までは直線通路で、鞄を肩に担いだ上条の後ろを左手に鞄を提げた美琴がついて歩く。 「何か用か? っつーかお前、もうすぐ門限じゃねえか。何こんなところで油売ってんだよ。鞄置いたら送ってってやるからちっと待ってろ」 上条は自分の部屋の前でポケットから鍵を引き抜き、シリンダー錠に差し込む。カチャリと一回右に回して解錠するとドアノブを握り締め、鞄を中に放り込めるだけのすき間を空けた。美琴は上条の後ろからそのすき間にすかさず右手を差し込んで 「アンタに話があるの」 「俺には何もねえぞ」 「アンタの都合なんか聞いてない。中に入れて」 「それはまた今度聞くって」 「大事な話なの。アンタにも、私にも」 上条の肩がギクン! と固まり、それまで無関心を装っていた黒い瞳が不安定に揺れ出した。上条は一度苦しげに息を吐き出すと、ドアを大きく引いて玄関に足を踏み入れる。美琴もその後に続き、背後でドアが閉じるのを確認すると、左手に鞄を持ったまま上条を後ろから抱きしめた。 「先に言っとくけど、今夜は帰らないわよ」 「…………」 「覚悟して来たから」 「……好きにしろよ」 上条を抱きしめていた両腕のうち右手だけを離し、美琴は後ろ手に玄関の扉の鍵をガチャリ、とわざと上条にも音が聞こえるように閉める。 退路は断った。覚悟は決めた。 御坂美琴は退かない――――――――――――全てを知るまでは。 上条が作ってくれた料理を食べて、上条のYシャツとバスタオルとユニットバスを借りてお風呂を済ませ、上条が床に敷いた布団の上にぺたんと座り、美琴は上条を待っていた。 美琴は若干乾きの甘い茶色の髪をかき上げながら (やっぱりこっちでお膳立てしないとダメ、か) はぁ、とため息をつく。 こう言った事は、上条はおそらく『初めて』だろう。と言っても美琴に何ができるわけでもない。 あの日の夜にしてやれなかった事を、今夜してやるだけの話。 上条が自炊生活の先輩を名乗るなら、美琴が恋愛の先輩を名乗ったって良いはずだ。 「ん? お前布団の方が良いのか? そういや常盤台じゃふかふかな高級ベッドだから、やっぱこういう日頃使わないもんに変な憧れ持ってたりすんのか?」 風呂を終えてツンツン頭の上にタオルを乗せて、わしゃわしゃと髪を拭きながら 「じゃあ俺ベッドで寝るけど」 上条は頭にかぶせたタオルで美琴の視線を遮り、ベッドに腰を下ろした。美琴は布団から立ち上がり、上条の隣に座ると 「ほら、頭出せー」 両手を使ってわしゃわしゃわしゃー、と上条のツンツン頭をタオルで拭いてやる。 「ちょ、良いって俺子供じゃねーから自分で拭ける拭けます拭くんだってば!」 上条がベッドの縁に沿って横に一歩ずれる。 「動いたらちゃんと拭けないでしょうが」 美琴がそれを追い駆ける。 「だから良いって!」 上条がもう一歩ずれる。 「おとなしくしなさいよ!」 美琴が追い詰める。 ベッドの端から端へ移動する追いかけっこは、上条が反対側の縁に追い詰められて行き詰まる。 「そっから動くんじゃないわよ」 タオルの上から美琴がガシィッ! と上条の頭を掴み、ゴシゴシゴシゴシと上条の髪についた余分な水分をタオルで拭き取っていく。逃げ場のない上条は無理に抵抗するのが余計子供臭く見えるのがよっぽど嫌なのか、あきらめて美琴に任せていた。 「よし、できた」 美琴は上条の頭からタオルを取り去ると、近場のハンガーを手に取ってタオルを掛けて壁に干す。ベッドに腰掛ける上条の隣に、わざと距離を詰めて座ると 「で……話があるんだけど」 「……何の話だよ」 「アンタが、私に……しなきゃなんない話があるはずよ」 「……俺は何にもねーぞ」 上条は美琴に背を向け、視線は下へ。 今の自分を見て欲しくない。離れて欲しいと訴えるように。 美琴は上条の両頬に自分の両の掌を添えて 「アンタね……彼女にいつまでも隠し事ができっとでも思ってんのか、こんのド馬鹿!」 そのままグキッ! と上条の首を強引にひねり、上条の顔を自分に向けさせた。 「こうやってアンタが私の顔を見るのは、私がアンタを学校まで送ってった日以来じゃない?」 「……そうだっけ?」 「アンタの考えてる事なんて、顔見りゃ分かるって前に言ったでしょ。……っつー事で、とっとと吐け」 「……何を?」 「あの日アンタが私を見て思った事全部よ」 「……何にもねーって」 「とぼけんな。……私には分かる。私もアンタと同じだったから、アンタがあの時何考えてたか分かる。私はあの日アンタを一人で帰すんじゃなかった。そしたらアンタはこんなに苦しまずに済んだ。……違う?」 美琴が上条に告白する前、美琴は上条を目の前にすると息もできないくらいに苦しくてたまらなかった。言いたくても言えないもどかしさで胸がいっぱいになって、どうして気持ちが伝わらないんだろうと一人でずっともがいていた。そのくせ上条のそばにいたいと願っては、反発を繰り返した。 あの頃の美琴と、今の上条は同じ目をしていた。 『それ』は蒸気のように熱を持って体内で暴れ回り、押さえつけなくてはならないと思っても押さえつける事に苦痛を感じる、誰かへの止められない思いそのもの。 答えは矛盾。 愛する者の名を口に出せずに呼び続ける、魂の叫びが生み出す矛盾だった。 美琴は上条の頬からいったん両手を離し、 「私の顔見て話すのがつらかったら、こうしててあげるから。アンタのそれは言っちゃった方が楽になるから。ゆっくりで良いから、彼女の私に全部言いなさい。アンタは私と違って、フラれる確率ゼロパーセントなのよ? 何が怖いの?」 母親が子にするようにそっと、上条の頭を両手で包み込んだ。 「アンタね、人に弱音吐いて良いとか言いたい事全部言えとか言っといて、何でそれを自分に当てはめないのよ。何で自分の理論を自分にだけは当てはめないのよ。何でアンタは、アンタの隣にいる私に何にも言わないのよ! ……ここにはアンタと私しかいないんだから、全部吐き出してもう楽になんなさい」 上条は小さくゆっくり頷いて 「……御坂、俺はさ。初めてお前にあった時『変な奴』だと思った。俺の中にお前の記憶はなくて、でもお前は俺を知ってて、いきなり電撃浴びせてくるし中学生なのにタメ口だしな。年上に対して口の利き方を知らない、生意気な奴だと思ったよ」 「うん」 「お前は見ず知らずの他人に恋人役を頼んでくるような非常識な奴で、何かあるとすぐ突っかかってくるしケンカ売ってくるし、わがままでうるさい奴だと思った」 「……わ、悪かったわね。その節はどうも」 「そんなお前が俺の事を好きだと言ってきて、最初は騙されてると思った。でもお前は本気で俺の事を好きでいてくれて、片思いでも良いって言い切った。俺はお前をすげーと思った。年下なのにすげー奴だって心から尊敬した。あの時俺は本当に負けたと思った」 「……だからアンタ、あの時勝った負けたって言って……」 「そんなお前の事をだんだん可愛いと思うようになって、でもお前はまだ中学生で、やっぱりそれは、そんな風に考えちゃいけねえって……。だから御坂、俺はお前と友達でいたかった。友達のままで…………いたかったんだ…………」 上条は心の中からかなわぬ願いを取り出して 「……そんなの無理ね。私はアンタの恋人になりたかった。ずっとアンタのそばにいたかったから。アンタの隣で、誰よりもアンタの一番近くにいたいと、そう願ったから」 美琴はかなえたい思いを差し出した。 「そうだよな。お前は俺に打ち明けて、俺はそれをオッケーしたんだから、友達でいるのはあの時で終わりだったんだよな。でも俺は戻れるんじゃないかと思った。お前から距離を置けば、風邪を引いた熱が下がるように戻れるんじゃないかと思ってた。……お前の言うとおり、無理だった。離れれば離れるほどどんどんお前に会いたくなって、声が聞きたくなって、そばにいて欲しいと思うようになっちまった。お前が苦しい時にはそばにいてやりたいと思った。お前が俺にそうして欲しいと思う事をしてやりたいと思った」 「……で? 友達だとか距離を置くとか会いたいとかそばにいたいとかいて欲しいとかそう言う小っさい事を取っ払って、アンタの心の中に残ったものは何?」 「御坂」 上条はおそるおそる美琴を抱きしめて 「俺は、お前が、好きなんだ。……苦しかった。すげー悩んでつらかった。でも全部取っ払ったら最後に残ったのは『お前が好きだ』って気持ちだけだった」 きっぱりと告げた。 上条当麻という少年は好意を向けられる事に対して非常に疎い。というより、好意を向けられる事をどこかで恐れているように見えた。そうではなく、『特別な好意』そのものが分からなかったから、自分から遠ざけていただけだった。 初恋に立ち向かっていった美琴と、初恋の前で途惑っていた上条の、友達以上恋人未満だった時間はこの日終わりを迎えた。 「やっと言ったか、この馬鹿。……大好き。アンタを誰よりも大事にするからね」 美琴は今できる精一杯の笑顔と共に、今度こそ恋人を強く抱きしめた。 「御坂、誰かを好きになるって、こんなにつらくて苦しいんだな。俺はちっとも知らなかった。こんなもんを抱えられるなんて、お前はやっぱすげーよ」 「でもその分、好きな人がそばにいてくれるってのは幸せでしょ? その人に何かしてあげられるって事は、嬉しいと思わない?」 上条は美琴の腕の中で 「やっとお前の言う事が分かった」 大きく頷いた。 「そ。だからアンタはこれから、私の事をよく見てなさい。私が何をすれば喜ぶか知りたかったらね」 「ああ」 そして、美琴はニヤリと笑うと上条を抱きしめていた腕を解いて 「さて、私の彼氏のアンタに早速聞いておきたい事があんだけど。……アンタが今日の放課後、学校から一緒に出てきた髪の長い女の子はアンタの何?」 上条の胸ぐらをむんずと掴み上げる。 「あ、あの……お前どこにいたの?」 「アンタに会いにアンタの学校へ行ったら、アンタが私の居場所に他の女の子侍らせて出て来るんだもん。人の事避けといてあれは何? ちゃんと分かるように説明してもらうわよ! 大体アンタの周りはどうして揃いも揃って………」 胸が大きい子ばかりなのよ、と言えずに美琴は口ごもる。 「あー、えーと、お前が見たのは吹寄だな。俺のクラスメートで委員とかをするのが大好きな仕切り屋の委員が趣味……って言えばいいのか? お前との事を相談してたんだよ。俺、女の気持ちなんてわかんねーから」 「……はい?」 それで相談結果がサプリメントと頭突きのセットとはどういうことだったんだろう? 「そしたら何か吹寄怒っちゃってさ。話になんなくて……だからお前が前に言ってた浮気? とかじゃねーから」 俺はお前だけだから、と上条がニカッと笑って美琴の頭を撫でる。美琴はそれが嬉しくて、嬉しい顔を上条に見せるのが何となく悔しくて少しだけうつむいた。 上条は美琴の髪を撫でる手をゆっくりと離し 「だからえーと。改めて、これからもよろしくな。『彼女』」 「……初めまして、『彼氏』。これからよろしく」 美琴は顔を上げて、小さく微笑んだ。 上条当麻は最低の彼氏だ。 下の名前で美琴を呼んでくれない。美琴がおしゃれをしても気づかない。まともにデートに誘ってくれない。美琴の誕生日も血液型も知らない。美琴を子供扱いしてキスさえ満足にしてくれない。 そんな上条に我慢できずに別れようとした事もあった。上条を思い続ける苦しさに押しつぶされそうになった事もあった。みっともなく泣き喚いて上条の前でだだをこねた事もあった。 それらは全て、この先にまだ長く続く物語のプロローグ。 少しだけ長いプロローグがやっと終わって。 こんなにももどかしい世界の上で、御坂美琴と上条当麻は今ようやく、恋人の一歩を踏み出した。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/幸福へのプロローグ 第八話 不安 ―12月上旬金曜日 期末テスト結果発表直後の自販機前― 美琴「あ、来た来た♪ 当麻ぁ~♪」 心待ちにしていた人物がやっと到着したようで、テンションが激上がりする美琴。 当麻「おう、今日期末テストの結果が返ってきましたよ」 美琴「んで、結果はどうだったの? ……補習は無いわよね…?」 当麻「……残念ながら、ございます。ハイ」 一瞬にしてテンション激下がりの美琴。そりゃテスト勉強の手伝いにどれだけ時間を費やしたかというのもあるし、 補習で冬休みの予定まで狂ってしまうかもと思うと、恋人としてこれ以上悲しいことなんてそうそう在るものじゃない。 美琴「そんな…いったい何科目が…」 泣きそうな顔で更に尋ねる美琴。上条の結果(こたえ)は… 当麻「…記録術(かいはつ)1科目だけです」 あー、確かにそればっかりは難しいというものだ。理由は言うまでもないが、敢えて言うなら右手のアレ。 …ん? 待てよ? 上条(こいつ)、確か1科目だけって言ったよな……? という事は… 美琴「………え?」 当麻「なので、補習科目1つしか無いから年末年始の帰省には問題ナシ。美琴と一緒に実家で年を越せます♪」 と言って、以前のオールレッドからここまで成績を上げさせてくれた恋人 兼 家庭教師の美琴を愛と感謝を込めて ぎゅ~っと抱きしめる上条。ぐぬぬ、学生時代の作者にも美琴みたいな女性がいてくれたら英語の成績が…いや、何でもない。 美琴「もうっ、余計な心配させないでよ当麻ぁ♪」(抱きつき&頬擦り) 当麻「悪ぃ悪ぃ。…ありがとうな美琴。上条さんは美琴のおかげで最高に幸せなのですよ」(ぎゅ~っ&なでなで) 美琴「えへへ♪ 当麻ぁ~♪」 あーもーこの二人は。こんなにいちゃいちゃされたら、この先の部分を(健全な内容だけど)文章で表現できないじゃないかまったく。 いくら人があまり来ないところだって言っても、さすがに公園なんだし、自販機置いてあるんだからたまには人来るはずだし、 完全下校時刻前なんだからそろそろ警備員(アンチスキル)さんの巡回が……あー、ほら、やっぱり来ちゃったよ。 警備B「えっと…あちらが、先輩が先月見た例のバカップルですかー?」 警備A「……あぁ、そうだ」(げんなり) 警備B「あらら、では先輩はお疲れのようなので私が完全下校時刻経過の通知をして来ます♪」 Bさん、上琴桃色空間目撃にもかかわらずダメージなしどころか絶好調だ。恐るべし。 先月(=第3話で)時刻通知したA先輩なんて、あの後、詰め所で「10km走よりも疲れた」とか言っていたのに。 …おっと、そうこう言ってるうちにBさんが時刻通知を終えて来た。 警備B「時刻通知完了、ちゃんと帰り道に向かった模様です」 警備A「ご苦労。ではこの近辺は異常なしのようだし、詰め所に戻ろうか」 警備B「了解です。…にしてもあの二人、良いカップルでしたー♪ 昔好きだった少女漫画を思い出しました」 警備A「……………あーそれはよかったな」(棒) 少女漫画レベルならまだ可愛いものじゃねーか、とA先輩が心の中でツッコむ。 ……そのしばらく後、(たまたま門前に寮監がいなかったので)寮の玄関前まで来た二人。 当麻「んじゃ、また明日な」 美琴「うん、またね、当麻」 と言って上条は自分の寮に向かって駆け足で向かい、美琴は寮内へ… 美琴「……? あれ? 当麻、何か用事でもあるのかな…?」 以前なら(少なくとも寮から見える範囲では)“歩いて”帰っていたはずなのに…と妙な違和感を覚える美琴。 まぁ上条にしてみればゲコ太制作を急ぎたいため当然なのだが、それを知らない美琴は不思議そうに眺めている。 寮監「どうした御坂? 門限寸前だぞ。入らないのか?」 美琴「え、あ、あははは…すみません、お手数おかけしまして…」 デパート等で言うところの「化粧室」とかいう所から出てきたらしい寮監からツッコまれ、慌てて美琴が中に入る。 ―翌日(土曜日)昼過ぎ 上条の寮の部屋内― 当麻「ぷはーっ……なんとか二度縫いは完了したーっ!」 縫うべき線の長さから不安はあったが、慣れもありなんとか二度縫いまでは完了。 さて次は、各部品をつなぎ合わせる作業か…? だとしたら技術指導要員の舞夏を呼ぶべきか…? ピンポーン(呼び鈴) 当麻「ん…? 美琴との約束よりは随分早いけど、誰だろ?」 と言いつつドアを開けると、そこには吹寄と姫神がいた。 当麻「おーっす…どうしたんだ? 二人揃って」 姫神「土御門君の妹さんから。制作作業進捗の。連絡があったから。そろそろコレ渡そうと思って」 吹寄「……私は…姫神さんの付き添いで」 姫神から渡された紙袋を見ると、何やらツヤのある黒色の物体が。 姫神「ゲコ太のサイズが。ちょっと大きめだったから。着ぐるみ用の“目”を。仕入れてきた。」 当麻「おぅ、サンキュー姫神。……ってコレどうやってゲコ太に装着するんだ?」 姫神「一応。装着方法は。メモを用意してある。ちゃんと。縫い針が通る素材で出来ているから。簡単にできる」 と言って、紙袋の中にある丁寧なメモ(図解入り)を見せる。 うん、これなら出来そうだ。 ……まぁ初挑戦の作業なので、今夜にでも舞夏あたりに技術指導を願いたいところだが。 姫神「あと。コレも」 当麻「んー?……げっ、確かコレ学期末までに提出の課題」(冷汗) 吹寄「『げっ』とは何事だ『げっ』とは! まったく貴様は…」 当麻「いやいや、コレを教室に置き忘れてたのを今思い出して、そんな自分に『げっ』と言っただけですが」(冷滝汗) 吹寄「……そ、そうか。てっきり5月頃までのだらしない貴様に戻ったのかと思ったじゃないか」(ぷぃっ) なんと、上条は美琴と付き合い始める前後から、スケジュール調整に悪影響の出る要因(補習や追加の課題)などを 全力で回避すべく、授業態度から何からいろいろと改善が進んでいたようだ。いやぁ愛の力とは偉大なものである。 姫神「…それにしても」 当麻「うん?」 姫神「…よかった。ゲコ太。ちゃんと。緑色のままで」 当麻「まだそっち心配してたのかよっ!」 吹寄「本当、上条当麻も成長したものだな。絆創膏どころか針の刺さった痕(あと)も無い」 当麻「……あーもう、お前らの俺に対する評価は未だにその程度だったのかよ」 そりゃそうだ(笑) 姫神「それじゃ。私たちはこれで。頑張ってね。上条君」 吹寄「…頑張れよ、上条当麻」 当麻「おう、もちろんだ」(にかっ) ―同時刻 上条の寮付近の路上― 美琴「……い、今、当麻の部屋から…女性が…?」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/幸福へのプロローグ
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/バイト生活 12:31 御坂美琴はファミレスの近くに来ていた。 理由はもちろん、上条当麻に会うため。 (今日はバイトしてるわよね…?) 上条がファミレスにいるかどうか確認しようと思った時、背後から声をかけられた。 「あ! 御坂さん!」 「こんにちはー!」 「初春さんに佐天さん!?」 「今そこのファミレス覗こうとしてましたよね?」 「気になる人でもいるんですかー?」 「いっいやっ、そそんなことないわよ!」 思い切り慌てはじめる美琴をみて初春と佐天は顔を見合わせる。 そして、なにか思い付きましたよ的な笑みを浮かべると、美琴の腕を掴んでファミレスへと向かう。 「えっ!? ちょっ、ちょっと!?」 「お話はファミレスの中で聞きましょうかね~」 「そうだね~」 (うそ~っ!? い、嫌な予感がひしひしとー! ……バ、バイトしてたら許さないわよあの馬鹿ーっ!) 先ほどとは真逆のことを考えながら、初春達のされるがままにファミレスの中へと入る。 「いらっしゃいませーって今日は3人できたのか」 中には、普通に上条当麻が立っていた。 「あ! 上条さんだったんですかー。へー」 「ほほう。これは詳しく聞く必要があるね初春?」 「そうですねー佐天さん。詳しくねー、うふふふ」 (こ、怖い……! 初春さんと佐天さんがいつになく怖い……。えーい! これもそれも全部アンタのせいだーっ!) 美琴はとても理不尽なことを考えつつ上条に八つ当たりをする。 それを察知したのか初春と佐天は既に美琴から離れていた。 「なんでアンタは今日に限ってバイトしてんのよーっ!!」 「なんでいきなり怒りだすんだお前は! しかも意味分かんねえし!」 「うっさい!」 「うおあぁ!? て、店内で電撃はやめてくださいですよ御坂サンっ!?」 電撃が一発放たれて、上条はそれをなんとか防いだ。 それを見た初春と佐天は呆然とした。 「……わかったわよ。席ついてるからね。ほら、初春さんに佐天さん。行くよ」 クビにしたことを再び思い出した美琴は途中で電撃をやめて、席へ向かう。 初春と佐天は我ここにあらずといった状態のまま美琴についていく。 席につくと、我にかえった初春達が一斉にまくしたてはじめた。 「いっ、今のは一体なんなんですか!?」 「御坂さんの電撃止めましたよね!? 今!」 「あ、えっと、それは………」 「この前はいきなり連れて行きましたけどアレはなんだったんですか?」 「レベルはいくつなんですか?」 「年上ですか?」 「どこの学校なんですか?」 「ちょ、ちょっと。そんなに一気に質問されたら答えようが……」 美琴はすごい勢いで質問されて戸惑いながらとりあえず二人を止める。 「あ……。そうでした。ちょっとあまりにびっくりしたもんですから」 「あははー気になっちゃったんだよねー初春?」 「そうそう、そうです」 「…そ、そう……」 『それで? どうなんですかっ!?』 初春と佐天の声がハモった。 美琴は僅かに身を引く。 そこへ、幸か不幸か。 「注文は決まりましたか?」 上条当麻がオーダーを持ってやって来た。 美琴はなんで来んのよ、見たいな顔をして上条をみている。 初春と佐天は目を輝かせていた。 「さっき電撃防ぎましたよね? なんだったんですか?」 「へ? …ああー、俺の右手にそんな感じの力があるからな」 「レベルはいくつなんですか?」 「ん? 0だけど?」 「ええぇ!?」 初春たちが驚いているのを聞きながら、上条は後方からの恐ろしい気配で震え上がる。 かなり後ろの方には、いかにも怒ってますオーラを出す店長が腕を組んで立っていた。 上条は少し震えながらも初春達に営業スマイルを見せて。 「……ご、ご注文が決まったらまたお呼びくださいー」 そう言って上条は逃げるように初春達のもとを離れた。 「…逃げられちゃいましたね。じゃあ、御坂さんに聞きますかー!」 「え?」 矛先が美琴に向けられたのを察知して、美琴は少し身構える。 「上条さん、でしたっけ? あの人、私たちが入ってきた時『今日は3人できたのか』って言ってましたよね?」 「そうそう! ということは、御坂さんは何回もここへ来てるんですか!?」 「ぅ……」 美琴は言葉を詰まらせる。 いきなり痛いところを突かれた。 なんとかごまかすことにする。 「ま、まあねー。な、なかなかおいしいからよく利用してんのよ。この店」 「ホントですかー?」 「っ!? ほ、ホントよ」 「上条さんって人が目当てじゃないんですか?」 そう言った佐天は既にわかってますよというような目をしていた。 図星を突かれて御坂は慌てる。 「なっ、何言ってるのよ。そそそ、そんなことあるわけないじゃない」 「そうですか。そうですよねー」 「そ、そうよ」 初春が相槌をうったので、それに乗っかる美琴。 佐天は初春の耳に口を近づけて、小声で聞く。 「ちょっと初春!?」 「大丈夫ですよー佐天さん。何とかしますからー。うっふっふー」 「う、初春……? 私、聞かれる側じゃないのに寒気が出てきたんだけど……」 「任せて下さいー。うふふふふー」 小声での会話を終えると、初春と佐天は美琴に向き直る。 初春が質問を開始した。 「この前いきなり上条さんを引っ張ってどこかへ行きましたよね? アレはなんだったんですかー?」 「ぅっ!? あ、アレは……ちょっと、大事な話を、ちょっとねーあはははー」 まさか馬鹿正直に言えるわけもないので、適当にごまかすしかない。 「大事な話って、告白ですか!?」 「な、ななな何でそーなるのよ!?」 「違うんですかー。なんだか残念です」 佐天は初春に任せているので、美琴の様子を見ながら水を飲んでいる。 美琴は分が悪いと感じ、少しでもこの空気から脱するために店員を呼ぶ。 今度はあの馬鹿くるんじゃないわよ……と願いつつ。 「…ご注文が決まりましたか?」 上条がやってきた。 なんで上手くいかないのよーっ!と心の中で叫びつつ、美琴は注文する。 できるだけ平静を装ったが、隠しきれていない。 初春と佐天も同様に注文する。 上条は注文を受けるとすぐに戻ろうとして。 初春に呼び止められた。 「上条さん」 「は、はい? なんでしょう?」 「御坂さんのことどう思ってますか?」 「へ? あー……」 上条は一度ちらりと美琴の方を向く。 美琴は興味なさそうに水を飲んだりそっぽを向いたりと忙しそうだ。 だけど美琴は耳に意識を集中させていた。 「友達。かな」 「そうですかー。ありがとうございましたー」 「ん? ああ」 上条が奥の方へと戻っていくのを見送って、初春は美琴の方を向いた。 美琴は明らかに落ち込んでいた。 美琴の周りの空気だけなんだかすごく重そうな気がする。 初春は聞いちゃいけないこと聞いちゃったかなーと反省する。 「御坂さん。私たち、応援しますよっ!」 「そうですよっ! 上条さんは友達って言ってましたけど、まだまだ先はありますって!」 「ぇ……? ぅん。ありがと……」 すぐには立ち直れなさそうなので、初春はあるものを取り出した。 「実をいうとですねー。ここに遊園地のペア入場券があるんですよー」 それは遊園地の入場券だった。 ただ、有効日付は明後日以降となっている。 それを見た佐天は再び初春の耳に口を近づける。 「ちょ!? ちょっと初春!? それって―――」 「しーっ。いいじゃないですか佐天さんっ。お二人の仲の進展を願ってあげちゃいましょうよ」 「うーっ。それ私も楽しみにしてたんだけどなー」 「大丈夫ですよ。なんとか手に入れてみせますから」 「ほっ、本当に!? さっすが初春~!!」 「ちょっ、ちょっと佐天さん!? 抱き着かないで下さいー!」 佐天は初春に抱き着いたまま離れない。 初春は諦めて先程の続きを言う。 「それでですね、これを使って上条さんを誘ったらどうですか?」 「………誘うのはいいんだけど、鈍感だから気づかないわよ。あの馬鹿は」 気分が落ちた美琴は上条のことを好きであることを否定もせずに言う。 「あー。確かに、そんな気がしますねー」 「それなら、もっとアタックすればいいんじゃないんですか?」 ようやく初春から離れた佐天が提案する。 「……そうなんだけど。できたらとっくにやってるわよ」 「つまり素直になれないんですねー」 「ぅ……」 痛いとこを突かれて美琴は机に突っ伏した。 すると、そこへ。 「ご注文の品を持って参りました―――ってどうしたんだ、御坂?」 上条がやってきた。 美琴は慌てて起き上がると、ひったくるように上条から料理を奪う。 「うおっ!? あ、危ねえだろ!」 「い、いいからとっとと行きなさいよ! この馬鹿!」 「な、何怒ってんだ……?」 上条は頭の上に疑問符を浮かべながら奥へと戻っていった。 それを見た初春が注意する。 「だ、ダメですよ御坂さん! あんな態度とっちゃ!」 「ぇ? だ、だって……」 「あれじゃあ嫌われてると思われてもおかしくないじゃないですか!」 「っ!? 嘘っ!?」 美琴は言われてとても驚く。 もしかしたら上条が自分の好意に気づいていないのは自分の態度にも原因があるかもしれないからだ。 よく考えてみると、会う度に電撃を浴びせることが多かった気がする。 美琴は素直になれない自分にため息をつく。 「ですので、これをあげますから明後日以降に誘って、アタックしてください」 「素直になればきっと気づいてくれますって!」 「ぅ…ん、そ、そうかな……?」 『そうです!』 初春と佐天は再び同時に言った。 美琴は勢いに負けて、頷いて初春から入場券を受け取る。 受けとってから、ふと気づく。 「あれ? 今、初春さん明後日以降って……」 「あ、気づきましたかー。そうです。今日のこの後と明日は御坂さんは上条さんに会っちゃだめです」 「ぇ? な、なんで…?」 「その間に御坂さんは素直になる努力をしてもらうからです!」 「ぇ? えぇえ!?」 「そして、明後日に、遊園地に誘うんです!」 「よーし! そうと決まったら早く食べて行こーっ!」 佐天が片手を上に突き出して言った後、すぐに食べはじめる。 「へ? えぇえ!? わ、私まだやるって言ってな」 「ほら! 御坂さんもはやく食べるっ!」 美琴の言葉を遮って佐天が急かす。 佐天は既に半分食べ終わっていた。 美琴は言われるがまま食べ始める。 3人が食べ終わるとすぐに初春と佐天は立ち上がって美琴の手を引っ張ってファミレスから出ていった。(お金はちゃんと払った) 「な、なんだったんだ。一体……」 すごい勢いでファミレスから出ていった美琴達を見送った上条は呆然としながらそう呟いた。 翌日。 従業員室。 美琴と初春と佐天がファミレスからすごい勢いで出ていった次の日。 上条当麻はバイトをしていた。 現在は休憩時間である。 ただ、今日はいつもと違い、御坂美琴が店に来ていない。 (今日はなんかあったんですかね。珍しい) そんなことを思っていると、後ろから声がかけられた。 「おーぅ、上条。今日はあの常盤台の子、来てないんだな」 バイトの先輩だった。 手を上げてきたのでこちらも同じく返す。 「あ、先輩。そうっすね。でもまあ、いつも来てたら飽きるからたまには別の場所で食べてるんじゃないですかね」 「その理由はないな」 「え?」 「お前、気づいてないのかよ? 鈍感だなぁ。あの子はお前が目当てで来てるんだぞ?」 「へ? なんで俺?」 「おまっ……鈍感にも程があるぞ。あの子は、お前に好意を持ってんの」 「み、御坂が? 俺に? いやいやいや、ないですって」 そんなのあるわけないといった風に上条は切り捨てる。 バイトの先輩はそれを見て憐れむような目で見てきた。 「お前のその思考回路を正常に戻してやりたい。…何をどう思ったらそう思えるんだ」 「いやいや、他にも人はいるじゃないですか」 「お前、知らないのか? あの子はお前がバイトをしている日にしか店の中には来てないぞ? 一回を除いて」 「一回?」 「ん。普通に入ってきたんだけど、その日は食べ終わるとすぐに出ていったぞ。ちなみにお前がいるときはそんなに早くない」 「でも、もしかしたらただの偶然……」 「一度お前をぶん殴って目を覚まさせたくなってきた。…お前がバイトに来てるときはよくお前の方を向いてるし、注文するときはわざわざお前を呼んでるんだぞ」 「そ、そうなんですか。ぜ、全然気づかなかった」 「いや、さすがに気づけよ。そこは。あ、もうすぐ時間か」 ちょうどそこで休憩時間が終わったので、二人は準備をすぐに済ませて従業員室から出ていった。 バイトは全然はかどらなかった。 土御門と青髪ピアスが冷やかしに来たのもある。(適当に相手してやって放置した) だが、それ以上に。 先輩に言われた言葉が気になったからだ。 (もしかして御坂は本当に俺のことを……? いや、そんなはず。…でも、先輩の言ったことはよくよく考えると筋が通っているというか…) 一度気になりだすとそう簡単には止まらない。 もしかしたら、いやそんなはずは。の繰り返しをずっと行っていたせいで、手元が狂って水を入れるのに失敗したりした。 (あーもう! なんで今日は御坂が来てないんだよ! 本当かどうか確かめられないじゃねえか) そんなことを思いつつバイトを頑張ろうとするが、気づいた時には手を止めて、御坂がいるんじゃないかと店内と店の入口を眺めてしまっていた。 そして慌てて仕事に戻り、気づいたらまた眺めているの繰り返し。 こんなのでバイトがはかどるわけなかった。 (会いたい) 何故だか分からないが不意にそんなことを思った。 すぐにその意味を理解して、慌てて心の中で否定する。 (な、何を考えているんだ俺はっ! バ、バイトだバイト!) だけど、気づいたら探していて、会いたいと思って、それを否定するの繰り返し。 やはり、こんなのでバイトがはかどるはずがなかった。 そんなこんなでバイトの時間は過ぎてゆく。 18:31 いつもよりも長いバイトが終わった上条はよく美琴と待ち合わせる喫茶店に来ていた。 もしかしたらいるかもしれない。と期待して。 だけどやはり、美琴はいなかった。 その事実に落胆している自分がいることに気づく。 そこでふと、普段の御坂の姿を思い出して。 (そういえば、こっちから御坂に会おうとすることなんてほとんどなかったな) それはつまり、美琴の方から上条に近づいているということ。 やはり、御坂は俺のことが?と考えて、またそれを否定する。 この状態から脱却したい上条は連絡でもとって会おうかなと考えて、携帯を取り出す。 だけど、電話やメールは打つ気にならなかった。 特に理由も無いのに会いたいなんて言うのは何だか恥ずかしい。 (そういや、なんで俺はこんなに気になっているんだ?) 上条は自分の状態に疑問を覚える。 だが、答えは出ない。 (悩んでも仕方ないし、帰るか) 上条は諦めて帰ることにした。 喫茶店を出て、家に向かう。 18:51 (近くまで来ちまった……何で?) 気づいたら上条は常盤台の寮の近くまで来ていた。 自分のことなのに、自分の行動が理解できない。 もしかしたら、理解しようとしていないだけなのかもしれない。 (どうする……? ここまで来たし、一度会ってから帰るか?) 悩む上条だったが、そこで問題があることを発見する。 (会って何を話す? 理由を聞かれたらどう答える?) 話す内容は別に何だっていいのだが、理由に関してはさっぱり思いつかなかった。 ならば、帰った方がいいのだろうが、何故だかそんな気分にはならない。 (会う。か? ……いや、帰ろう。明日はきっとあいつも来るだろう。その時にでもいい。……けど、明日は来るのか? 今日は来なかったし) 既に、自分が何故こんなに気にしているのか?という疑問に埋め尽くされてしま ったため、美琴が上条のことを好きかもしれないという可能性は頭から飛んでいた。 だからか、バイト先に来るという確信が持てない。 上条は悩んだ末に一つの答えをだして歩きだした。 次の日 結局、上条は帰ることを選択していた。 だけど、あまり眠ることができなかった。 今日は補習がないので昼からのバイトのみである。 なので、二度寝することにした。 だけど、あまり眠ることができないままバイトの為に出掛ける時間になったので、すぐに準備して出かけることにする。 バイト先に着いたのはギリギリになってしまった。 いつもの様に不幸な目にあっていたからだった。 (あの犬め……今度会ったら覚えてろ) と、三度出会った犬に悪態をつきつつバイトをし始める。 1時間程経過したころ。 「いらっしゃいませー」 御坂美琴が来訪した。 どこか緊張した面持ちの美琴は、特に話すこともなく席に着く。 上条は頃合いを見計らってオーダーを持って美琴の所へと行く。 「ご注文は決まりましたか?」 「ぁ、ぅん。でも、その前に聞きたいことがあるんだけど……」 美琴はすごく緊張した感じで言ってくる。 だけど、顔は少し赤かった。 何か真剣な話なのだろうか。 「ん? 何だ?」 「バ、バイトが休みの日って、いつ?」 「確か明日が休みだったと思うぞ」 「そ、その日。よ、予定あいてる……?」 「ああ。上条さんはほぼ年中無休で予定はあいてるぞ」 「じゃ、じゃあ。明日、13時に公園の自販機前にきてねっ!」 「…りょーかい」 話が終わると美琴は普通に料理を注文して、上条はそれに応じ、奥へと戻っていった。 美琴は内心ドキドキしながらも喜んでいた。 (や、やった! な、なんとか言うことができたっ! ありがとう、初春さん! 佐天さん!) (……なんか、今日の御坂はいつもと違った様な気がしたけど……ま、いいか。明日になったらわかるだろ) と、そんなことを思いつつも、つい、何故だか美琴の方を向いてしまう。 ふと、そこで目があった。 上条はすぐに目を逸らす。 (あー! もう! なんで御坂の方ばっか見ちまうんだ俺はーっ!! な、なんだか気まずくなるだろーがーっ!) 頭をワシャワシャー!と掻いて紛らわす。 だが、5分もしない内に再び御坂の方を向いていた。 再び、目があってしまう。 上条は音速の速さで目を逸らす。 実を言うと美琴も同じタイミングで目を逸らしているので、お互い、相手が目を逸らしていることには気づいていない。 そのことを知らない二人は、勝手に気まずい空気を作り出していた。 そして、そのせいでこの日この後はまともな会話は一切することがなかった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/バイト生活